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2002/07/28

<総合>韓日W杯感動総括特別インタビュー 高円宮憲仁親王殿下

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    たかまどのみや・のりひと親王殿下 1954年、三笠宮崇仁親王殿下(昭和天皇の弟)の第3男子として誕生。学習院大学法学部卒業。カナダのクイーンズ大学留学。81年から国際交流基金に嘱託として勤務。84年結婚し、「高円宮」の宮号を賜る。日本サッカー協会・同ホッケー協会など数多くの団体の総裁・名誉総裁を務められている。

◆地方都市巡り似た文化実感

 朴社長 今大会は史上初の共催でしたが、その成果をどのようにお考えでしょうか。

 高円宮殿下 ヨーロッパと違って海を挟んでいますし、移動も大変です。関係者は頭を悩ませたと思います。また日本も韓国も過去にオリンピックという大きなイベントを経験していますが、一緒にはおこなったことがない。世界的なイベントを一緒にやったというこの自信は両国国民にとってとても大きいと思います。

 97年のフランス大会予選の時に、日本チームが韓国で韓国チームと対戦したときに「一緒にフランスへ行こう」という垂れ幕があったというニュースを聞いて、共催は成功すると思いました。今回日本が負けたあと、日本が韓国を応援するというのがありましたが、あのときの垂れ幕のお返しが出来たかなと思いました。

 韓国国民も日本国民も共催にむかって努力をした。その努力の積み重ねで成功したと思います。お互いにそれまではなかなかできなかったことをこの際に始めようということになり、韓国では日本文化の開放がなされました。これはとても大きなことだったと思います。日本でもできるかぎりのことをしたと思います。両国が試行錯誤、検討を加えながらここまでもってきた努力と決断が、W杯を成功に導いたと思います。単独でやっていたとしたら、今回のような成功にはならなかった。FIFAはある意味苦し紛れの結論だったと思いますが、しかし結果的には両国にとっての大きな贈り物になったと思います。


 朴社長 日本の皇族として戦後初めて韓国を公式訪問されましたが、韓国の印象はいかがでしたでしょうか。

 高円宮殿下 非常にあたたかく歓迎していただきました。金大中大統領は4年前に日本でお会いしていますから初対面ではありませんでしたし、訪問先の方々だけでなく、チャガルチ市場(釜山の魚市場)のおばさんも若者たちもあたたかく接してくれました。また、たくさん写真をとろうと思って車の窓を開けていたのですが、新聞報道などで知ってか、バスの運転手さんや道を歩いている人が気付いて手をふってくれたのがとっても嬉しかったです。顔かたちも風景もとてもよく似ていますし、日本の九州をドライブしているような気分でした。唯一違うのが民家の屋根の形ぐらいで、やはり一番近い民族だと感じました。

 ソウル、蔚山、釜山、慶州、水原に行きましたが、慶州が一番きれいで印象に残りました。山に行くとお寺があるというのも日本と同じですね。基本的には日本と非常に似た文化だと思いました。それが逆に新鮮でした。もっと知れば違う部分も感じるのでしょうけど、今回は駆け足で5日間でしたから。


 朴社長 今回のW杯を通じて日韓はかつてない親密な関係を築くことができました。今後さらに磐石な日韓関係を築くには、どのような交流が必要でしょうか。

 高円宮殿下 両国ともできることを最大限にやってきて成功させた。いままではお互い違う方向から押していて動かなかった大きな岩が、今回一緒に同じ方向から押したので動き始めた感覚があります。その岩が両国にとっていかによい方向に進んで行くのか、そのための努力を両国国民は続けて行かなければなりません。そしてスピードアップすること。これまではW杯というきっかけがありました。今後は両国で一緒に、どういう方向に進むか考えなければなりません。

 今までの日韓の50年は、必ず50年前にまず戻ってそこから始まりましたね。しかしこれからの日韓は2002年に戻って、「あの時一緒にやったじゃないか」「また一緒にやりましょう」という関係であってほしいと思います。

 在日の方々の存在も非常に大きいです。日本人と在日の方も過去いろいろありましたけれども、今回の共催でお互いのことをもっとよく認識できるようになったと思いますし、そうであることを期待したいです。日本の国内においても在日と日本人がもっとうまくやっていくという形が生まれてくると思います。在日の方にとって韓国は祖国ですが、日本は現実に生きているところですからどちらも大事ですね。日本、韓国、在日の3者がもっと強く結びつくことにW杯が作用してくれたと思います。


  ◆交流積み重ねることが大事

 朴社長 今回のW杯をきっかけに日韓双方の人と人の交流が増えそうに思えますが。

 高円宮殿下 私が韓国に行っているときにあちこちで日本人観光客を見ました。日本でチケットを買えないので、韓国での試合を見るというツアーだったらしいのですが、そうすると昼間は観光して、夜は試合という、図らずも日本人が韓国に行くチャンスが増えた。そういう積み重ねが大きいと思いますね。私は国際交流基金に勤めていますが、実際にどれだけ人が動くかということが交流、友好につながりますから、一人でも多くの日本人が韓国に渡り、一人でも多くの韓国人が日本に渡ることが一番大事です。お互いの国を肌や目、舌で感じる人々が増えていくことによって日韓の交流が本当の意味で強まっていくと思います。私もそのうちの一人です。

 また、このW杯が日本と韓国に非常に大きな橋を架けたのではないでしょうか。過去のことは絶対に忘れてはいけないけれども、若い世代の人たちは前を見て進んで行ってほしいし、韓国の若者も日本の若者もその準備はもう十分できているでしょう。
今回サッカーはもちろん、それ以外のイベントもたくさん催されましたね。W杯共催が決まってからこの6年間、本当にたくさんの積み重ねがあって、質も量もどんどん増えてきました。そうした意味でも、今回のW杯が両国のためにしてくれたことは大変に大きかったと思います。