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2004/01/01

<総合>新春座談会

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    韓日FTAについて韓日双方の立場から意見を交換する出席者たち(左から朴承武公使、朴良燮支部長、田村紀之教授、桑原哲審議官、本紙・金時文編集局長)

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    パク・スンム  1947年生まれ。ソウル大学卒業。77年、駐大阪副領事、駐横浜領事、駐日大使館参事官、外交政策室外交情報管理官、駐ガーナ大使、駐広島総領事などをへて、2003年から駐日大使館経済担当公使。

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    くわはら・さとし  1955年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。77年、通商産業省入省。通商政策局通商調査室長、日本貿易振興会シドニー産業調査員、産業政策局調査課長、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授などをへて、2003年7月、大臣官房審議官(二国間協力担当)。韓日FTA交渉の日本側代表の一人。

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    たむら・としゆき  1941年、京都生まれ。一橋大学卒。東京都立大学経済学部長などをへて二松学舎大学教授。十数年前に韓日の経済学者を組織し、日韓経済経営学会を発足。2003年、東アジア経済経営学会(日韓経済経営学会を改称)会長。

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    パク・ヤンソプ  1951年、全羅南道珍島生まれ。全南大学卒。延世大学大学院(経済学修士)修了。栗山海運をへて79年韓国貿易協会入会。94―97年東京支部課長。貿易調査部次長、貿易研究室長をへて2003年4月から東京支部長。在日韓国企業連合会事務局長を兼任。

 2005年の締結をめざす韓日FTA(自由貿易協定)の政府間交渉が昨年12月22日にソウルでスタートした。FTAによって、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に匹敵する経済規模を持つ韓国と、GDP世界第2位の日本が手を結び、単一市場が誕生すれば、その経済効果は計り知れない。しかし、韓国の対日赤字増大、農業分野の打撃などが予想され、FTAの障害も多い。韓日FTAの課題や効果について、韓日の関係者に討論していただいた。


 ◆ 主席者 ◆

朴 承 武・駐日韓国大使館経済担当公使(顔写真:上)
桑原 哲・経済産業省大臣官房審議官(顔写真:上から2人目)
田村紀之・二松学舎大学国際政治経済学部教授
                           (顔写真:上から3人目)
朴 良 燮・韓国貿易協会東京支部長(顔写真:下)
(司会=金時文・本紙編集局長)


 -なぜいまFTAか-

◇司会◇ 近年、世界的にFTAが浸透してきたが、その背景には、WTO(世界貿易機関)がうまく機能しなくなったという要因がある。しかし、なぜいま韓日FTAなのか。その辺からお話しいただきたい。

◆桑原審議官◆ なぜいまFTAなのか。その理由は二つあると思う。
 昔は途上国に工場を造るとなると、それをメンテするためにエンジニアが要り、それを動かすための熟練工が要る。またインフラも要る。だったら日本でつくって輸出しようということになる。ところが、IT(情報技術)の発達で機械がNC(数値制御)化されてきて、つまりコンパクトカメラみたいになってきて、だれでも操作ができるようになった。未熟練工でも機械が使えるようになり、途上国のあっちこっちに工場ができ、グローバルな生産の分割が進む動きが出てきた。
 その一方で、そういう投資が急激に集積されていく。例えば、80年代初めに3000人くらいの町だった中国のシンセンなどは、あっという間に100万都市に変貌していく。ASEANなど途上国の産業集積の5割以上は、過去なら30年、40年くらいかかっていたものが、この10年の間にどぉーんとできたものだ。
 こういう現象の中で、どうやったら自分の国に産業を集積させ、リージョナルな産業のセンターになれるか。そのツールとしてFTAが意識されるようになってきた。
 もうひとつは、なぜWTOじゃだめなのかという問題だ。ウルグアイラウンド交渉の当時は、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)ができ、欧州や米国に輸出をして経済が発展してきたアジアの途上国は、締め出されるんじゃないかという危機感を持った。こうした中でWTOルール強化について、途上国も、先進国も求心力を持っていた。ところが、WTOがウルグアイラウンドから次の段階に移り、単に貿易の自由化だけでなく、農業の自由化、知的財産権とかいろいろなルールに拡大し、途上国の産業政策を縛るような分野に入っていったり、先進国も農業の門戸を開けるのはむずかしいという状況のなかで、途上国はWTOルール強化への意欲を失ってしまう。世界の貿易量の90%以上を占める国々がドーハデベロップメントアジェンダをまとめようとしたけれど、わずか10%以下の途上国がテーブルをひっくり返してしまった。先進国からすると、1割の国が障害になるなら、9割の国だけでやろうという意識になってくる。それだったら、リージョナルでやっていこうということになる。これがFTAが台頭してきたもう一つの理由だ。

◆朴公使◆ 韓国は資源も少なく、貿易を通じて国力をつけなければならない。そのためにはグローバリゼーションが大事だ。貿易で生き残るためには、世界的な自由貿易体制が保たれなければならない。そういう組織に基づいて韓国はWTOの枠組みを尊重してきたのは事実だ。しかし、その流れの中でも自由な貿易を促進していくという観点から、日本とのFTA本交渉を開始した。ASEANともFTA締結に向け積極的に動き出している。
 最近、韓国はWTOの枠組みを捨てたのではないかといわれるが、そうではない。韓国は個別主義の行動としてFTAをとらえているわけではなく、WTOの共存共栄をめざす自由貿易を保証する枠組みの中で、国と国との間で自由な貿易をやろうということだ。
 ほとんどの国がFTAを結ぶことになれば、FTAの小さな傘がどんどん広がってWTOの大きな傘になる。
 なぜいまFTAが必要なのかというと、その背景にはWTOが途上国と先進国との意見の対立でうまくいっていないということがある。カンクン閣僚会議の失敗で今後どうなるのか先が見えない。だから、その間にFTAの小さな傘からはじめて、WTOの大きな傘に入ろうという考えだ。
 いまは時期的にFTAしか選択の余地がない。2国間だけでなく、どんどんその輪を広げていく。そのためには、いろんな面で共通点の多い隣国である日本とやろうということだ。

◆朴支部長◆ 韓日FTAは、世界的な流れであり、米国や欧州はひとつの経済圏になって、アジアだけが取り残されている。アジアの中で韓国と日本は、隣の国であり、ほかの国よりも経済的に関係が密接で、しかもレベルが一番近い国だ。また韓国は1960年代からの経済開発で日本の技術とシステムを導入して成長を続けてきたから、FTAをやったらウィン・ウィン(ともに勝者)の関係が築かれるのではないかということだ。

◆田村教授◆ 韓国と日本に関していえば、FTAを結ぶ差し迫った理由はない。世界的なFTAの流れに乗り遅れまいという意識と、中国とASEANが急激に接近しだしたために、あせっているのではないかと思える。中国とインドも接近しているし、インドはASEANに接近している。そういう変化をにらんで韓国と日本も接近したというのが実情だろう。

◆朴公使◆ いや、この話は1年や2年前に出たものではない。韓日FTA構想が出てきたのは98年で、それからもう5年もたつ。お互いにFTAの必要性を共感していて、政治的な意見の交換や研究をずっとやってきた。それが、カンクンの失敗以来、両国の間で急激にFTAがクローズアップされてきたということだろう。

◆田村教授◆ 分厚い報告書があることは私も知っているが、なぜいまごろになってかというと、外部にはやはり焦りと映る。しかし、政府間の本格交渉を開始したことは素直に喜びたい。両国はそれぞれ複雑な国内情勢を抱えており、妥結に至るまでにはいくつかの山を越えなければならないが、孤立状態から脱し、世界的な潮流に船出することの利益の大きさを見誤らなければ展望は明るい。


 -ネックになる分野は-

◇司会◇ 両国の産・官・学共同研究会が報告書をまとめ、FTAは双方にとってプラスになると提言した。しかし、韓国では反対意見も多いと聞くが。

◆朴支部長◆ チリとのFTAでは農業が問題になった。しかし、農業のウエートは小さい。韓国の産業構造はやはり重工業であり、工業製品が中心だ。
 韓国は日本から技術を学び、部品を入れ、第3国に輸出して経済が発展してきた。日本より工業のレベルが低いため、日本とのFTAで大きな打撃を受けるのではないかと懸念する声が多い。全体としては、日本とのFTAには賛成だが、企業の場合には不安がある。
 特に中小企業および部品をつくる企業が心配だ。しかし、韓日FTAに反対なのではない。交渉では韓国の中小企業に対するいろいろな配慮が必要だろう。

◆朴公使◆ 参・官・学の研究会がスタートする前に、専門家の間でFTAに関するさまざまなモデルの研究を行った。最初は韓国側に不利ということで、日本とのFTAに対して悲観的な意見もあった。しかし、後で総合的なモデルを使ってきちんと研究をしなおしてみたら、韓国にとっても利益だということが判明した。
 しかし、初期段階では赤字が増え、韓国側の不満が高まるだろう。実際問題として、自動車部品など安くて質の高いものが日本から入ってくると、失業を恐れる部品製造業者の労働組合から反発が予想される。

◆桑原審議官◆ FTAの影響について考えるときには、産業の発展モデルに対するイメージを変えないといけないと思う。日本はフルセット型の産業構造で、韓国も似ている。アジアで最初にFTAを実施したのはシンガポールであり、タイも今では非常に熱心なFTA推進の立場をとっているが、彼らはフルセット型のモデルなど最初から考えていない。
 なぜ、ASEANがFTAに乗り出したかというと、中国をはじめとするいわゆるエマージングエコノミーに対して脅威と期待を感じてきたためだ。前の方には韓国や日本がいて、後のほうには中国やベトナムがいて、自分たちはサンドイッチの真ん中にいて、そのうち両方からつぶされて、生存の余地がなくなってしまうんじゃないかという脅威を感じてきた。それがFTAという道具を使うことによって、中国の脅威をビジネスチャンスに変えて行こう、中国の経済発展を利用しようという方向に転換してきている。中国から安いものを買ってきて、自分たちの競争力を高め、世界的に強くなろうという発想で、頭からフルセットの考え方はない。
 例えば、サムスンはメモリー半導体(DRAM)では世界一だが、製造装置は日本から買っている。日本は優れた機械がつくれても、それを使ってつくるDRAMでは韓国に負けている。相手のいいところを自分たちの武器として取り込んで、勝てる分野で勝っていく。なにもかもメイドインコリア、メイドインジャパンで固めたもので勝負するんじゃなくて、最終製品において一番強いものをつくっていく。ASEANは、そういうことを念頭においているのであって、日本も韓国も、産業構造についてのイメージを変えていかないと、これからやっていけなくなると思う。

◆朴公使◆ いま審議官がおっしゃったように、ひとつの国が世界のマーケットで全部勝とうというのは無理だ。互いに競争力のあるものは生かし、ないものは補う。韓国と日本のFTAではそういうことが大事だろう。ただし、工業分野は共通点が多くて、お互いに強いところを生かせていくのでいいが、農業が予想以上にネックになるかも知れないということで、心配する声もある。

◆桑原審議官◆ 私は、必ずしも農業大きな障害になるとはみていない。韓国の農業分野もも日本に劣らずセンシティブな分野であり、一方的にどっちが強いというわけではない。韓国のメディアの人たちの中には、相対的に韓国の農業があらゆる分野で日本の農業より競争力があるようなことを前提にしたような言い方をする人もいるが、日本の農業関係者の中には日韓FTAをビジネスチャンスと考える人もいる。
 日本の「ふじりんご」は世界的「ブランド」になっており、成田空港でもお土産として売っている。日本国外で生産されたりんごに「ふじりんご」のブランドを盗用した「偽ふじりんご」が海外で大量に出回っているのは周知の事実だ。二十世紀ナシや緑茶でも日本の競争力は結構高いのではないだろうか。
 一体に日本の農作物は価格は高いが品質も高いというものが多い。日本の消費者は、農業製品に関して、「日本産は高級品。輸入品は廉価品」というイメージをかなり持っているのではないだろうか。私は、高級食材に関しては、日本の農業はかなり強い国際競争力を持っており、多くの人々が日本の農業の実力を過小評価しているのではないかと思っている。少なくとも韓国との関係ではお互いに強いところと弱いところがあって、ギブアンドテイクの取引が成功しうる状況ではないかと思っている。

 -克服すべき課題は-

◇司会◇ 韓日FTAは克服すべき障害や課題も多い。どういう立場で臨むべきか。

◆桑原審議官◆ やはり、日韓のFTAはかなりレベルの高いものにしていかなければならない。自由化のレベルが低いと、日タイ、日マレーシアのFTAにも影響してくる。日本と韓国は先進国同士であり、その先進国の間のFTAでいろいろな例外を設ければ、どんどん例外が出てきてしまう。そういう意味で、全部なくす。関税を100%なくし、マーケットをフリーにしていく。これが基本的出発点だ。関税を高くして守るというのはFTAの精神に反し、それならはじめからやらないほうがいい。

◆朴公使◆ 韓日FTAは非常に意義深いものになる。2005年は国交正常化40周年であり、正常化以来最も大きなできごとになる。しかし、両国の平均関税率をみると、日本が2.9%、韓国は7%台で、ゼロから始めるとなると、どっちが不利か明らかだ。センシティブな分野でどう譲歩していくか、バランスをとっていくのが大事だ。

◆朴支部長◆ 関税の差とか、技術水準の差、企業の競争力の強さなどを考慮すると、韓国の対日輸出が心配だ。特に、日本市場の非関税障壁が壁だ。日本市場への新規参入が容易にできるようにオープンな市場づくりが必要だと思う。

◇司会◇ 韓国の対日貿易赤字は昨年180億㌦に膨れ上がった。FTAによってさらに赤字が増えると大きな問題になるのではないか。

◆朴公使◆ 韓国は、日本から部品を買って組み立て、輸出している。輸出している品物の中では、部品や原資材を日本から輸入してモノをつくることも多く、韓国の輸出が増えるのに伴って、対日赤字も増える。FTAによって、日本が直接投資を増やして、部品を韓国でつくれば国際分業が進み、赤字改善につながると期待している。

◆桑原審議会◆ ちょっと韓国側に認識の違いがあるようだ。韓国が日本から部品を買って競争力のあるものをつくり、輸出して利益をあげる。しかし、日本との赤字はけしからんというのであれば、すべての国との貿易で黒字を出さなくちゃならない。日本はサウジアラビアから石油を買い、膨大な貿易赤字を抱えているが、だれもおかしいとは思わない。

◆田村教授◆ 二国間だけの収支をみて赤字か黒字かというのでは貿易は成り立たない。韓国は日本との貿易では赤字だが、よそとの貿易では黒字を出しており、なにも問題はないのではないか。

◆朴公使◆ 盧武鉉大統領が日本を訪問した際に、赤字は韓国の構造上の問題でもあり、韓国側も努力すべきところがあると話した。韓国側も原因についてはわかっている。しかし、このままでいいというわけにはいかない。日本がもっと技術移転をし、投資も増やしながら対日赤字問題に積極的に努力してほしい。

◆朴支部長◆ 関税率の差がすなわち国力の差だ。官僚レベルでは納得しても、国民感情というものがある。いまは全体の貿易が黒字だからいいが、これが赤字に転落したら、大変な反発が出てくる。

◆桑原審議官◆ FTAの目的は赤字を減らすことではない。互いにマーケットを拡大し、ビジネスチャンスを広げていくことだ。技術が高いか低いかという問題意識のあり方も、現在のビジネス環境から少しずれてきているのではないだろうか。韓国には韓国の強みがあり、日本には日本の強みがある。
 日本製品をみると、インテグラル(部品の統合)な技術、すなわち部品と部品をすり合わせ統合するのは得意だが、モジュール(部品の構成単位)を組み合わせて新しいコンセプトを作るのはあまりうまくない。モジュール化が著しく進んでいるひとつの分野はパーソナルコンピューター産業だが、日本は非常に弱い。韓国はモジュール化した部材を組み立てて商品コンセプトをつくっていくことに比較的優位があるのではないか。

◆田村教授◆ 日本と韓国の間には制度のずれがある。一番大きなのは労働組合の問題だ。それと環境の問題や出入国管理の問題。FTAを成功させるには、そういったものを調整していく努力が必要になってくるだろう。
 開かれた2国間、多国間をめざしたFTAにしていくことが大事だと思う。特に北朝鮮をどうするかだ。今年中にいまの軍事的リスクが解決されると、今度は平和攻勢に出てくる。
 そうすると、逆にチャンスが生まれるわけで、日韓がFTAを利用して北との経済協力を進め、盧武鉉大統領が唱える東北アジアハブ構想の中に取り込むような姿勢が必要になってくる。

 -韓日関係への影響は-

◇司会◇ FTAによって、今後の韓日関係はどう変わるか。その意義と経済効果は。

◆朴支部長◆ 第2の国交正常化になる。10年くらいたつとマーケットが一つになり、20年くらいたつと東アジア共同体ができる。中国や米国の立場を考えて、できるだけ開かれたFTAにすべきだ。

◆朴公使◆ FTAはモノ、カネ、ヒトの開かれた自由な往来を保証するものだ。なかでも人的交流が重要な課題になる。それには、まず日本側がビザ(査証)を廃止し、韓国人がビザなしで往来できるようにすることが大事だ。今年から韓国からの修学旅行にはビザが免除になるが、これを早急に拡大してほしい。

◆田村教授◆ それよりも、日本は宿泊費が高すぎる。交通費も高い。日本の観光客は景気が悪いと韓国に行くが、良くなるといかなくなる。なぜ、韓国、台湾を含んだ東アジアの観光ルート開発という発想が生まれないのか。

◆桑原審議官◆ 日本はEUやNAFTAとの競争関係からメキシコとFTAを結ぼうとしており、直面している経済的利害関係に突き動かされたものだ。しかし、日本と韓国の間には、メキシコとのようにFTAを結ばないと産業界が大きな損害を被るといった差し迫った事情がない。日本と韓国は、当面の短期的な経済利益じゃなく、アジアの先進国同士が、この地域におけるプロトタイプ(基本型)としてのFTAをどう結べるかという試金石になるという点において、大きな意義がある。だから、きちんとしたものにしたい。

◆田村教授◆ 中国とASEANの接近という政治的な側面が強く、FTAは日本にとっても韓国にとっても、それほどメリットはないと私はみている。意義があるとすれば、日本と韓国がFTAを結び、友好関係を世界にアピールすることだ。

◆朴公使◆ 経済面だけでなく、社会、文化、政治的影響が大きい。成功させるには、信頼できる政治的環境をつくることだ。歴史認識など、互いに信頼関係を築き、未来に向け新しい歴史をつくるという認識が大事だ。

◆桑原審議官◆ 産業政策がフルセットから抜け出していくという効果が大きい。日本がサムスンのDRAMを使って競争力のある製品をつくる、サムスンは日本の製造装置を使って半導体をつくるというように、FTAによって大きな相互補完効果が期待できる。

◆田村教授◆ 日本はなんでも一番にならなければならないという意識を捨てなければならない。韓国に負けても、中国に負けてもいい。負けるところは負け、守るところは守る。韓国も日本に追いつけ追い越せという意識を捨てなければならない。もうすべての分野で日本に勝とうという時代ではない。日本に追随すれば韓国はもっとダメになる。韓国も日本も発想の転換が必要だ。

◆朴公使◆ 韓国と日本は隣国であり、長い交流の歴史があり、民主主義、自由経済という同じ背景を持つ。FTAで人口1億7000万、世界のGDPの17%の市場が誕生し、アジア全体に大きなインパクト与える。これから、韓日は東アジアでリーダーシップを発揮していかなければならない。

◆朴支部長◆ 企業の競争力が強くなるが、経済以外にもいい影響が出てくるだろう。歴史的感情が薄くなり、韓日の間に未来志向のいい関係が築かれると期待する。

◆田村教授◆ 日本と韓国ほど文化的に近い国はない。いま、経済的にうまくいっているのがアニメだ。東京とソウルの隠れた地場産業がアニメで、韓国でつくっても違和感がない。台湾や東南アジアでは色彩感覚が違いうまくいかない。こういう文化的近似性を経済に生かしていく。これはほかの国ではできないことだ。

◆朴公使◆ 今年から日本大衆文化が全面開放になり、いいインパクトを与えるだろう。これで経済的に統合されれば、両国のあらゆる分野で信頼関係が強まると思う。

 -FTA成功への提言-

◇司会◇ 最後に、韓日FTAの成功の秘訣は。

◆桑原審議官◆ 先ほども述べたが、日韓FTAアジア地域の先進国同士のFTAであり、立派なFTAを結ぶことができるかどうかが日韓両国の試金石になるという認識を関係者が強く持っていくことが必要だ。交渉に当たってもできるだけ多くの分野における自由化を保留しておいて小出しにカードを切っていくやり方は望ましくない。むしろ可能な限りの自由化をオファーして相手の自由化の不十分な分野の自由化を求めていくようなやり方のほうが、より高い成果を上げることができると考えている。

◆田村教授◆ FTAへの抵抗勢力があり、日本では農業、それを政治的基盤としている官僚、政治家など、個別利益で身動きがとれない。韓国も歴史認識や政権が弱すぎるという問題があり、総論で動かないという可能性があり、総論で動かないという可能性がある。そういうものを世論やマスコミが説得していく必要があるだろう。

◆朴公使◆ 政府間で署名しても、国会で批准されないのではないか心配する声もある。国内で反発が出るかも知れない。従って国民的コンセンサスが一番大事で、交渉の間に、互いの国民に説明し、理解を求める必要があるだろう。ガラス張りにしてやったほうがいい。韓日間では政治がらみの微妙な問題が起きやすい。両国の信頼関係を強めていくことがなによりも大事だ。

◆朴支部長◆ 国民に対し日本とのFTAは有益でいいことだと説得することが必要だが、ビザ廃止とか日本側も協力姿勢をみせないといけない。

◆田村教授◆ 自国政府が交渉の過程で一方的に譲歩しているという印象を国民に与えないことだろう。韓国では日本に一方的に譲歩したとなると、国民感情が沸騰する。日本政府も、譲歩を小出しにするというやり方はやめるべきだ。最初に双方が100%譲歩しておいて、それからどれだけ取るか、そういう姿勢のほうがいいだろう。

◇司会◇ 本日はありがとうございました。