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2008/01/01

<総合>新春座談会『東アジア大潮流―南北協力時代の韓日中の役割』

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    東アジア共同体や南北の経済協力について活発に意見を交換する参加者たち

 昨年10月の南北頂上会談で韓国と北朝鮮は、南北鉄道の運行、西海平和協力特別地帯(経済特区)の造成、造船団地建設など、南北の経済協力をさらに拡大していくことに合意した。国際社会の懸案事項だった北の核問題も解決に向けたロードマップが順調に進展しており、今年は東アジア情勢が大きく動く1年になりそうだ。こういった東アジア新時代の潮流の中で、韓日中の首脳外交も活発化しつつある。東アジアの平和と繁栄に向け、3カ国は何をなすべきか。「東アジア大潮流―南北協力時代を迎えた韓日中の役割」をテーマに、専門家のみなさんに話し合っていただいた。

◆出 席 者◆

東洋学園大学教授          朱 建 栄 氏
大東文化大学教授          永野 慎一郎氏
二松学舎大学教授          田村 紀之 氏
駐日韓国大使館商務担当局長  金 京 洙 氏
東京大学東洋文化研究所准教授 玄 大 松 氏

 司会 まず、簡単な自己紹介と東アジアとのかかわりについてお話しください。

 田村 もともとは理論経済学をやっていて、数学を使って金融問題や経済政策の研究を手がけていた。アジアに興味を持ったのは、1973年の第一次オイルショックのときに、ある役所の仕事で東南アジアの食糧事情調査に出向いたことがきっかけだ。フィリピン、タイ、インドネシアなどを訪問し、アジアへの興味が沸き、NIES(新興工業経済地域)から中国へ、そして韓国にのめり込むようになった。

 永野 私は韓国生まれ。専攻は国際政治だが、韓国出身としての自分の持ち味を生かすために、大学の同僚たちとアジアNIESの研究を始めた。まず現地を視察しようと、台湾、韓国、香港、中国を訪問した。上海国際問題研究所でセミナーをやったとき、同所の所長から東アジアの研究機関同士の学術交流をやったらどうかと提案されて、日本、韓国、中国、台湾の研究機関による東アジア地域国際シンポジウムを始めた。持ち回りで毎年開催し、すでに15回を数えている。

 金京洙 20年前に日本に来て一橋大学で修士課程を終え、10年前に再び一橋で博士課程に学んだ。産業資源部に入り、IT産業、地域産業、産業政策、中小企業政策などを担当し、いまは産業資源部からの出向というかたちで駐日韓国大使館に勤めている。

 朱建栄 日中国交樹立の翌年の73年、中学生のころに中国で戦後初めての日本語ラジオ講座が開設され、それを聞いて日本語を勉強した。高校生のときに文革で農村に下放されたときも日本語の勉強を続け、77年にトウショウヘイが復活して文革後の第1期大学統一試験が行われた際、日本語で受験して合格した。これが日本とかかわるきっかけだ。

 86年に来日したが、それ以前に上海国際問題研究所にいて、日本と朝鮮半島を担当していた。当時は中国と韓国は国交がなく敵対関係にあり、北朝鮮は同じ共産主義の同盟国で批判ができず、研究はできなかった。

 改革・開放後の89年に国際文化交流協会の招待で韓国に行き、それをもとに中国で初めての韓国紹介本「昇龍の秘密」を出版したのが韓国とのつきあいの始まりだ。そこから日中韓関係に関心が広がっていった。

 玄大松 93年に来日し、15年目になる。釜山で船員の高校を出て、19歳のときに船乗りなったが、最初に乗った船の船長が日本人で、そこで日本語をかじり、日本に興味を持った。外国語大学に進学し国際政治を専攻したが、専門以外に外国語を学ぶ必要があり、日本語を選択した。東京大学法学政治学研究科に留学して、修士、博士を終えて、06年から東京大学の東洋文化研究所に勤めている。

 これまで日韓関係、特に独島(竹島)の領土問題が両国の相互イメージにどのような影響を与えるかを中心に研究をやってきた。最近は、アジア27カ国の普通の人々の考え方や生活の違いを探る比較世論調査に加わっている。

 司会 今年は南北関係が大きく進展し、東アジア情勢が激変するとみられている。韓日中の首脳の定例会議も決まり、3カ国の蜜月時代が来ると期待されるが、この動きをどうみるか。

 永野 93年秋の上海会議で、東アジア地域の平和と安定のためには日韓中の首脳間の交流が必要だ、2国間の交流はあるが、3国首脳が一堂に会するところに意義がある、それを定例化すべきだと呼びかけた。日韓中の首脳会談を持ち回りで東京、ソウル、北京でやり、また、地方都市でもやる。政治的な問題はできるだけ避けて、経済、環境問題などでやったらどうかと提案した。

 93年11月に米シアトルで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の非公式首脳会議で、江沢民主席、金泳三大統領、細川首相の3人が偶然遭遇したかたちで顔を合わせたのが3国首脳の集まりの始まりだ。しかし、それで終わってしまった。

 司会 3カ国首脳が会うようになった契機は。

 永野 99年11月、マニラで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日韓中)首脳会議に出席した金大中大統領、小渕恵三首相、朱鎔基首相の3首脳による朝食会が始まりだ。04年までは、毎年ASEAN関連会議のときに開催された。

 朱 80年代、90年代初めまでは、米国への気兼ねもあって、3カ国首脳が会うことすらできなかった。それが3カ国でやろうという意識が出てきたことは大きな変化だ。

 司会 今年は東京でやることが決まった。これで蜜月関係までいくか。

 朱 蜜月というのは一夜にしてできるものではなく、積み重ねが必要だ。現時点では、それに向けて足音が聞こえてきたという段階だ。これを首脳だけでなく、政府、閣僚、学者へと発展させていくことが重要で、ようやくその土台ができたと言っていいだろう。

 永野 小泉首相の靖国参拝が原因で2年間中止されたが、07年11月にシンガポールで、福田康夫首相、温家宝首相、盧武鉉大統領による日韓中首脳会談が開催され、ASEAN関連会合の枠外で定例化が決まった。一歩も二歩も前進だ。

 朱 小泉さんで止まったが、二度と対立してはいけないという教訓を残したのではないか。

 金 これまで2国間でしかできなかったものが、3カ国の民間交流、経済協力に発展した。その背景には、投資や関税の問題、エネルギー、環境とか、3カ国で協力していかなければならない課題がたくさん出てきたということだ。これからは、政治的葛藤や利害を超えて共通の目標をどう定めていくかが重要だ。

 玄 国際情勢からみると、3カ国は非常にいい関係になりつつある。今年は、米国は大統領選挙で忙しい、中国は北京五輪、韓国は新政権になり、盧武鉉政権の時代よりは、日米韓関係、韓中関係はよくなるだろう。

 日韓関係をみると、独島問題は10年に1回大きな波が来るサイクルになっている。これが落ち着き、靖国問題も福田さんになり大きな問題にはならないと思う。懸念材料は、最近日本政府に対して国際的に圧力が高まっている従軍慰安婦問題と、春の中学の教科書検定をめぐる世論の風向きがあるが、前政権と比べればそれほど大きな問題にはならないといえる。

 田村 いま10年ごとの竹島という発言があったが、日中も10年ごとにもめている。日本経済新聞は、「日中間の時限爆弾、長い冬と短い春」と表現していた。

 それより重大な問題は、サブプライムローン(米の低信用者向け住宅融資)だ。10年前の東アジア通貨危機のときにはなかった。さらに原油高、穀物高まで発生している。日本はデフレを脱却していないし、韓国も今年まちがいなく経常収支が赤字になる。中国はバブルを抱え、人民元の切り上げ圧力をどうするのか。さらに台湾は、3月に総統選挙があり、不安材料がたくさんある。

 3カ国首脳がようやく会えるようになったことは歓迎すべきことだが、小泉、安倍政権で決定的に冷え込んだものが、ようやく回復したという程度だ。3カ国ですり合わせをし、閣僚、実務者レベルまで首脳会議が波及すれば、かなりの成果が上がると思う。

 司会 今年一番心配なのは経済ということか。

 田村 やはり経済になる。3カ国だけでなく、世界全体の問題であり、大きな懸念材料だ。

 金 そういう点では米中関係が問題だ。米国の景気が後退すれば、中国経済が大きな影響を受けるし、中国との経済関係が深まっている韓国も深刻な影響を受ける。米中関係が重要になってくるだろう。

 司会 今年は北京五輪があるので、中国の経済がおかしくなると非常にまずい。

 朱 経済、外交ということでは、北京五輪が最優先される。台湾海峡で小さな緊張はあっても、台湾は経済の大陸への依存度が高まっており、米国も現状維持を容認しているので、それほど変化はないだろう。

 バブルが懸念されるが、中国経済はスケールが大きい。いろんな分野で問題が発生することはあっても、経済全般の混乱を招き、成長率が大幅に落ちるようなことは当面はない。

 司会 東アジアを考える場合に北朝鮮問題ははずせない。北朝鮮経済はどう変化するのか。

 田村 北朝鮮は開放姿勢を見せているが、どこまで本気なのか、見極めが非常にむずかしい。一番警戒しなくてはならないのは、中国が北朝鮮への援助をやめれば半年ももたないということだ。

 06年のデータをみると、穀物の43%、石油の全量を北は中国に依存している。それをストップされたらもたない。中国がどこまで北朝鮮の面倒をみる覚悟があるのか。中国はもううんざりしているという報道もある。

 韓国の次期政権も同じように支援を継続していくのか。日本は拉致問題が解決しなければなにもやらないという姿勢だが、原油の供給と同じように韓国、中国、米国が交代でやっていくのか、または、日本を引き入れるのか、これは、福田政権と次の日本の政権にかかってくる。今後、韓国と日本、中国がどう北朝鮮を支えていくかがカギになる。

 朱 北朝鮮の開放は、もう後に戻れないという流れを見る必要がある。北朝鮮は、中国をモデルにしながら、ソフトランディングして経済を発展させていく、政治優先路線では対応できないというように意識が変わり始めた。国境地帯から平壌まで、自由市場を通じて個人がカネを稼ぎ、国も物を作って外国に売ったり、外国から輸入するしか発展できないということがわかってきた。

 中国も、78年に改革政策をとって以来、84年に危機があった。海南島などの開放政策で外国車を輸入しようとしたときに北京からストップがかかり、幹部が更迭されるという事件が起き、保守派から深センなどの特区は悪いものだと攻撃を受けた。いまでも批判勢力はあり、順調に見えるが、中国も試行錯誤でやってきた。一旦開放したら、北も戻れない。

 玄 開城工団はソウルからわずか60㌔しか離れていない。ここを開放したことで、南の勢力が北に食い込んだ形になった。北朝鮮もそれくらい必死だということだ。北朝鮮にとって市場開放は諸刃の剣で、体制崩壊につながるかもしれないのに、それをやった。韓国にとっても北朝鮮の労働力が必要になっており、政権が変わっても、南北経済協力は必要である。心配なのは、世界的な景気後退で韓国の経済も深刻になり、北朝鮮に大規模な支援ができなくなるのではないかということだ。

 金 北朝鮮は不透明で不確実性要素が多いが、開放に向かうのは確かだと思う。政治的、軍事的議論ばかりやっていて、北への援助という概念はあったが、北の自立のための投資というような議論はこれまでなかった。これが、今年の大きなテーマになるだろう。

 永野 北朝鮮の経済は、韓国だけでは支えきれない。米朝関係も進展しており、福田首相も真剣に北との関係改善に取り組むのではないか。

 昨年10月の南北首脳会談の共同宣言文に在外同胞の権益のために南北が協力していくことが盛られたが、金正日総書記が在外同胞問題で一番頭を痛めているのは朝鮮総連の問題だ。日本政府も手がつけられない。この問題の解決には韓国の協力が必要だ。日朝問題解決のために日韓中の協力体制も必要だろう。

 田村 北朝鮮が門戸を開いたからといって、最後までいくとは限らない。開城工団がうまくいっているかといえば、8割が赤字だ。中小企業は出て行っても大企業は行かない。これを是正するためには、北朝鮮が本気で開放をやるんだという姿勢を見せる必要がある。

 司会 中国のように北朝鮮経済がうまくいくにどうすればいいか。

 永野 中国の開放政策も最初は失敗した。しかし、続けるところに意義があって、金剛山観光も開城工団も赤字だが、北朝鮮の改革・開放への誘い水となり、本格的な開放に進めば、これは一種の先行投資になる。

 最終的には日朝国交正常化が焦点になるだろう。国交正常化が実現すれば、日本から経済協力のための資金が入る。日本企業は最初は躊躇するだろうが、韓国企業や在日コリアン企業が先に入っていけば、日本の企業も徐々に入っていく。在日企業・韓国企業・日本企業の提携がやりやすい。やはり日朝国交正常化が大事で、これがうまくいけば、すべて解決するだろう。もちろん拉致問題を含めてである。

 田村 中国がうまくいったのは、政権が変わったためで、開放政策をとった政権とその前の政権とでは違う。しかし、北朝鮮の場合は同じ人物が政権の座にいるので難しい。

 金 政権交代がなくても、トップの意識を変えることはできるのではないか。

 永野 まずは、北の政権を安定させるしかない。それを保障してやることだ。そして自立経済を周辺諸国が支援することだ。改革・開放が進展し、経済が安定してくると、自然に民主化が行われる。これは韓国や台湾が経験している。

 金 日朝が国交正常化してすぐに北朝鮮の経済に光が差すわけではない。資金だけが入り込んでも、経済がうまくいくとは限らない。北のリーダーたちが、自分たちの国の体制が守られるという確信ができ、中国のように人的交流が進まないと経済は盛んにならない。開城工団のように韓国企業が投資しても、そこに市場が生まれていないことが問題だ。

 司会 さっき北の開放が本気かどうかという話がでたが、対外的にそれを示すことが重要だ。

 田村 トウショウヘイも、最初は出島でも、それが内陸部に波及していけばいいという発想だった。同じことで、開城と観光地だけにとどまっていてはいけない。それを広げ、後戻りできないかたちにしていくことが重要だ。

 朱 開城工団だけで北が変わってきているのではなく、中朝国境地帯や平壌での自由市場など、その動きの中で開城を受け入れたということを見る必要がある。これまでは、周辺国がそれぞれ思惑があって牽制し合い、逆に北朝鮮は変わらないで、それをうまく利用できた。いまは、日中韓や6者協議で、周辺が足並みをそろえてきた。日本から見ると、北は強硬で、強いというふうに見えるが、北がいかに小さいか、弱いかを見ないといけない。弱いから自分を大きく、強く見せないといけない。周囲の状況が変わって、中国を含めて北を守ってくれる人がいなくなったので、「非核化」のテーブルに着いたということだ。周辺の環境の変化で、北朝鮮を開放に追いやる流れができてきたと見るべきだ。

 玄 中朝は同盟国だし、北京五輪もあるので、中国は北をおとなしくさせる方向にもっていくに違いないだろう。2月にはニューヨークフィルが平壌で公演するし、テロ支援国から解除する動きもある。解除されれば韓国から北にいろんな物資を供給しやすくなる。問題は日朝関係だろう。

 田村 日本外交のまずさは、拉致にこだわり、一切交渉に応じないという姿勢で、拉致問題に「拉致」されている点だ。日本は放っておいて、他の国がみんなでやれば、後から日本もついてくるのではないか。

 司会 東アジア経済圏構想が浮上しているが、その軸となる韓日中はどうすればいいか。

 田村 選択肢は二つある。ASEANに協力してやるのか、別個に3カ国が枠組みを考えるのか。欧州は50年かかっているのだから、アジアは100年くらいかかる気持ちでやったほうがいい。

 永野 EU(欧州連合)も1952年に欧州石炭鉄鋼共同体からスタートして欧州全体に広がった。東アジア共同体構想は、日韓中が軸になり、とりあえずASEANを含める範囲で可能なことから始める。目先の国益じゃなく、30年先、50年先の東アジア地域がどうなるのか、世界はどのように変化していくのかを視野に入れて長期的な展望で構想すべきだ。

 ただし、欧州各国はそれほど経済的格差がないが、東アジアは、一人当たりGDPが1000㌦に満たない国もあり、格差が大きいので、それが一緒になれるまでは時間がかかる。やれるところからやるしかない。

 司会 ビジネスの世界では、韓日が自動車の世界シェアの40%、薄型テレビでは65%を握り、世界の盟主になっている。ここに世界の工場である中国も入ってくる。いまや、世界的次元で考える必要があるだろう。

 玄 EUは宗教・文化など統合しやすい環境にあったにもかかわらず、50年もかかった。東アジアは多様な文化が入り乱れているうえ、米国が東アジア共同体に反対の立場をとっている。東アジア共同体の形成には米国の協力が不可欠で、これから米国ファクターにどのように対処するかも問題だ。

 金 21世紀という観点からみると、3カ国が中心になり、北朝鮮、台湾まで含めて発展していく方向性が望ましい。3カ国は、自動車、半導体、薄型テレビなどの分野で競争が激化するだろう。半面、生産の効率化、エネルギー、公害など解決すべき共通の課題があり、首脳会談や閣僚会談で話し合うべきだ。

 朱 東アジア共同体の構築に向け、日中韓はいまから準備を進める必要がある。なぜなら、この3カ国は東アジア全体のGDPの85%以上を占めており、3カ国がうまくやれば、地域の流れが変わるからだ。すでに、3カ国が中東からの原油導入交渉で共同歩調をとるなど、エネルギーで協力する動きが始まった。環境問題も共同で取り組む合意ができている。

 欧州とアジアは文化的、歴史的に違うので、単純にまねる必要はない。アジアでは協力可能なところから積み上げていき、民間、学者、マスコミの交流が進めば、自然と東洋文化の国であるという共通の意識が出てくる。急ぐ必要はないので、ゆっくりやったらいいと思う。

 田村 東アジア経済圏ということばを使うからASEAN中心とか、どこまで含めるかといった問題が出てくる。3カ国の関係は深まっていくしかないわけで、それをどうスムーズに進めていくかだ。

 朱 要するに重層的でいい。ASEAN+スリーでもいいし、東アジアサミットも続けながら、それと併行して3カ国のトップ会談をやっていけばいい。

 田村 中国が言い出しても、日本が言い出しても警戒するから、韓国がイニシアチブをとるのが一番いいのではないか。いまがチャンスだ。

 朱 これまで日中は、互いにライバル意識で張り合ってきたが、最近中国は自信がついてきて、日本がイニシアチブをとることに反対しなくなった。

 永野 いままで韓国も中国も経済発展が遅れていたが、成長した現在は日本と対等に話し合いができるようになった。これまで日本は、圧倒的に強かったので、自分がリーダーだという意識があったが、これからは共通の利益を追求し、共生の道を考えていかないといけない。

 田村 いま3カ国が早急にやらなければならない問題というとなにがあるだろう。

 朱 省エネ、未来に向けた新エネルギーの開発などが挙げられる。日中韓が油田の開発から輸送、備蓄まで共同でやり、互いに相手から離れられない、不可欠な関係を築いていったらいいと思う。

 金 資源開発で対立してきたものを協力に転換することは重要だ。さらに中国への投資拡大で、中国の規制緩和がどう進んでいくかも焦点だ。

 田村 早急に協力が必要なのは金融だと思う。いまわれわれが持っているのは、通貨危機に陥った国に緊急に外貨を貸すというチェンマイ・イニシアチブしかない。これではなにか起きたときに対応できない。金融政策を共通化するとかの対策が必要で、これは中国のインフレ防止にも役立ち、世界経済の危機を救うことにもつながる。これはすぐ始めたほうがいい。

 司会 最後に、東アジアの安定には南北関係の発展が不可欠だが、南北の経済交流をどうすべきか。それに日中ができることはなにか。

 田村 南北鉄道の開通を契機に、道路、電力(送電網)など北朝鮮のインフラを日韓中で協力して整備してはどうか。南北だけで人間の往来はむずかしいが、日中からもどんどん人が行けば、北も変わるかもしれない。

 永野 中国は最初、南の沿岸地域を中心に実験的に経済特区をつくり、拡大していったが、北朝鮮も同じ方式で、開城から広げていく。北は先軍政治で、軍事力に力を入れている。軍事力を平和産業にまわすために、経済特区で除隊した軍人を積極的に雇用できるようにすることも一つの方法だ。

 金 周辺国が北朝鮮の経済をどうみるかが一番大事だ。これまでの延長線でみるか、先を見て投資するか。北も立場をきちんと表明し、人道上の問題を解決しなければならない。経済の問題は人的交流の問題でもあり、交流を念頭において議論すべきだ。

 司会 中国が北朝鮮にとって最大の支援国だが、今後どうなるか。

 朱 中国はこれまで、国境で有事があったら困るという意識で北に支援してきた。現在は6者協議で一緒にやり、北朝鮮のソフトランディングは中国の国益にプラスになるというスタンスで積極的に支援しており、北から要請を受けて経済の専門家を派遣したりもしている。

 北朝鮮に必要なことは、韓国や在外の朝鮮同胞をいかに取り込めるかということだ。中国の経済特区は、最初は外国向けではなく華僑向けだった。呼びかけても最初から外国企業は来ない。深センは香港の隣、珠海はマカオの隣、厦門は台湾の向かい側で、これらの特区は、すべて華僑の投資を当てにしたものだ。開放後の大陸への投資の6割は香港経由、つまり中国人で、血は水よりも濃いということだ。

 北朝鮮も同じだ。在日、韓国企業が先に出て行く。ことばがわかるし、習慣も同じだからうまくいく。そうすれば流れが変わるだろう。独裁体制を倒すために支援するというのでは北は応じない。金正日総書記を変えなければならないという意見もあるが、経済的にメリットがあれば、北朝鮮も変わる。経済が発展すれば逆戻りはできなくなる。

 田村 朝鮮総連を大事にしなくちゃならないということだ。

 永野 朝鮮総連のなかにはかなり前から北に投資している企業もあり、パイプを持っている。北も安心感があるだろう。これを活用すれば、在日や韓国企業の北への進出はやりやすい。その成果を見ながら日本の企業も加わる。投資が進めば北の経済も安定するだろう。経済にメリットを感じれば開放も進み、改革も進む。

 司会 貴重なご意見、ありがとうございました。


  しゅ・けんえい 1957年、中国上海生まれ。上海国際問題研究所付属大学院修士課程修了。学習院大学で政治学博士取得。86年、総合研究開発機構(NIRA)客員研究員として来日。学習院大学、東京大学非常勤講師などを経て東洋学園大学教授。

  ながの・しんいちろう 1939年、韓国全羅南道新安郡生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。英国シェフィールド大学政治学科博士学位取得。現在、大東文化大学経済学部教授、同大学院経済学研究科委員長。

  たむら・としゆき 1941年、京都生まれ。一橋大学卒。東京都立大学(現・首都大学東京)経済学部長などを経て二松学舎大学国際政治経済学部教授。20年前に日韓経済経営会議を発足、現在、同会議を改組した東アジア経済経営学会顧問。

  キム・キョンス 1957年、全羅北道生まれ。釜山国立大学経済学部卒。高麗大学産業情報大学院、一橋大学大学院経済学科博士課程修了。産業資源部広報担当局長、産業政策課長などを経て駐日韓国大使館商務担当局長。

  ヒョン・デソン 1961年生まれ。韓国外国語大学政治外交学科卒。高麗大学国際大学院地域研究科日本地域専攻修士、東京大学大学院法学政治学研究科修士・博士課程修了。財団法人アジア太平洋研究会研究員などを経て東京大学東洋文化研究所准教授。