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2010/12/28

<総合>新春座談会『21世紀の韓日経済協力のあり方』

  • 新春座談会『21世紀の韓日経済協力にあり方』①

    キ・ビョンテ 1933年、韓国仁川市生まれ、ソウル大学校商科大学卒経営学専攻、元釜山銀行大阪事務所所長、元大韓空調(韓日合弁企業)社長、元韓国青年会議所常任副会長を歴任、現在、韓国貿易協会理事、韓日協力委員会運営委員、韓日経済協会会員、PHP研究所友の会国際交流会副会長、YKKKOREA顧問、大統領表彰(貿易部門)受勲。

  • 新春座談会『21世紀の韓日経済協力にあり方』②

    すいた・しょういち 1933年福井県生まれ。早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒。1955年三菱経済研究所入所。65年三菱総合研究所へ移籍。応用経済部長などを経て取締役。退任後、98年から2002年まで敬愛大学国際学部教授。現在、日本経済復興協会理事。実証エコノミストとして執筆・講演活動を続けている。著書に「大転換期の企業経営」(学文社)など。

  • 新春座談会『21世紀の韓日経済協力にあり方』③

    チョ・ウォヌン 1958年生まれ。成均館大学社会学科卒。埼玉大学政策科学大学院卒。経済企画院調査統計局。金融監督委員会、財政経済部などを経て、2010年8月から駐日韓国大使館財政経済官。

  • 新春座談会『21世紀の韓日経済協力にあり方』④

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 新春座談会『21世紀の韓日経済協力にあり方』⑤

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

 韓国経済が急速に発展する中、韓日の経済協力のあり方も変化を迫られている。韓日の経済関係はこれからどう変わっていくべきか、また変わらなければならないのか。昨年、韓国ではG20(主要20カ国・地域)首脳会議が開かれ、続いて日本ではAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれるなど、韓日両国とも世界における存在感を示した。韓日は今後、世界経済をどうリードしていけるのか。「21世紀の韓日経済協力」のテーマで、5人の識者に語りあってもらった。

◆出 席 者(敬称略)◆
ハイソフト会長             奇 秉 泰 氏
日本経済復興協会理事       吹田 尚一 氏
駐日韓国大使館参事官        趙 源 雄 氏
日本総合研究所主任研究員    向山 英彦 氏
大東文化大学准教授        高安 雄一 氏


司会 まず自己紹介と、G20、APECの2つの国際会議について、各自の見解と感想を述べてもらいたい。

吹田 私は三菱総合研究所の創業に携わった。創立後まもなく韓国開発院と共同で、特に製造業の発展というテーマで共同研究を行ったこともあって、韓国とは長い付き合いになっている。

 最近は日本経済復興協会で、日本の中小企業の動向を記事にしている。

 ソウルのG20サミットは、テーマが通貨安競争をやめようということ。それから資本流入規制、特に開発途上国への資本流入の規制を抑制するべきであること、そして国際収支の不均衡を是正すること、この3つがテーマだった。各国とも、金融リセッションに対する政策対応に終始して、世界経済の変動に対応した新しい長期システムを構築するところまでは行かなかった。これが問題として挙げられると思う。

 奇 私はソウル大学で経営学を学んだ後、会社勤務をした。その会社がエアコンのコンプレッサーを製造する韓日合弁会社を作ったとき、500人の社員を抱えるその合弁会社の社長として働いてきた。今もそのYKKコリアの顧問、そして他にも日本と関連ある企業の顧問をしている。

 G20で明らかになったことは、先進国のリセッションからの脱出が苦難の道であること、新興国が独自の道を模索してきたことだ。その二つを突き合わせて新システムを作るところまでは出来なかったという印象を持っている。

 APECでは、同地域の成長戦略をお互いに取り上げることを決めた。それから地域統合の将来像を描いていくことを合意した。3番目には、例えば防災対策とか女性の社会進出とか、中小企業の人材育成とか、これまで取り上げられなかったテーマを共同研究しながらやっていくことを確認した。地味だけれども、地域発展を取り上げた意味では成果があったのではないかと思っている。

 為替問題はうまくいかなかったけれども、発展途上国への支援が話し合われたのは意味がある。

趙 私が日本で生活するのは3度目だ。最初は20年ほど前、埼玉大学の政策科学大学院で2年間勉強する機会があった。2回目は05年から08年にかけて、内閣府内に経済社会総合研究所という部署があり、そこで3年間日本の経済を研究するために派遣された。

 その後、韓国の企画財政部から外交通商部に派遣され、昨年8月9日から駐日韓国大使館に勤めている。担当は、財政と経済と金融、日本の財務省と金融庁と公正取引委員会の仕事にあたる。

 G20に関して言えば、まず韓国がアジアの途上国として初めて国際会議を開いたことは、とても大きな意味があった。さらに今回、グローバルセーフティーネットが作られたことは大きい。アジアの国々はインフラの問題を抱えているが、それに対応する開発の問題をテーマに色々と話し合われた。

 APECに関しては、以前のAPECでは具体的な政策がなかったが、今回成長戦略を立ち上げて、地域統合に関するスケジュールや今後の青写真を提示したことは意味があった。

向山 私は日本総合研究所(三井住友フィナンシャルグループのシンクタンク)で、韓国経済を中心としたアジア経済の分析を行っている。韓国に関しては、マクロ経済を中心にした実体経済の分析と、それと関連して韓国が抱える構造問題の研究を行っている。

 先ほど奇先生と趙先生は「開発途上国としての韓国」という表現を使われたが、96年のOECD加盟によって、韓国は先進国の仲間入りをしたと私は思っている。戦後の貧しい状態から短期間で経済発展した韓国が、今回G20を開催したということにまず意義を見出すことができる。

 今日の世界経済は、先進国の利害と、成長を続けている新興国の利害が対立しかねない構図になっている。そのような中、李明博大統領が利害対立を表面化せずにまとめて、一つの方向を示したという点に2番目の意義があった。3番目は、途上国に対して総合的な援助を実施していくことの合意、「共有された成長のためのソウル開発合意」をこの会議でとりつけたことである。先進国と途上国の架け橋としての役割を担おうという韓国の姿勢を示せたのではないかなと思う。

 一方、APECはこれまでの貿易投資の自由化の評価をしつつ、これからの共同体のあるべき姿をより具体的に見せたという点では評価できる。

高安 90年に経済企画庁に入り、それ以降、日本経済、海外経済の研究分析をしてきた。私にとって大きな転機は、99年から02年の間にソウルの日本大使館に書記官として3年間、派遣されたことだ。99年は、韓国が通貨危機から立ち直って果敢な構造改革をやっている時期で、その時に現地で韓国経済の研究をすることができた。07年に筑波大学に出向した。出向期間終了後に内閣府には戻らず、大東文化大学で研究を続けることとした。

 G20とAPECに関してだが、アジアでは中国が非常に注目されている。GDPも今まで日本が世界2位だったが、昨年中国にとって変わられた。このような中、経済に関する重要な会議が日本と韓国で行われ、それなりの成果を収められたということは、アジアにおける二つの先進国である日本と韓国の重要性をアピールできたと思う。

 APECについては、「横浜ビジョン」の合意で、アジア太平洋自由貿易圏の構築にむけて具体的な行動をとることが決まった点、アジア・太平洋を成長センターととらえて、成長戦略をある程度示すことができたことが大きかった。

司会 韓国と日本は政策上の共通項がある。少子高齢化、雇用問題、青年失業、財政問題とか構造的に韓日は似ている。国際社会における地位向上、アジアのリーダーになっていくためにも、韓国と日本がこれらの問題で協力が必要ではないかと思う。どういう方法があるだろうか。

吹田 まず日本経済が直面しており、今後直面する問題をいうと、グローバル化への対応、世界的な共通課題として環境への対応、日本的な課題としてデフレ経済にどう対応するか、地方の低迷、雇用難がある。

 日本の経済・社会にとって一番の難題は、少子高齢化にどう対応するかということに尽きると思う。約20年弱遅れで韓国が今の日本の状態になっていくと予測される。

 例えばデフレとよく言われるが、その原因は人口減、労働力人口減だ。賃金を稼ぎ出す人口絶対数が減っている。これがデフレをもたらし、国内市場が伸びない要因になっている。財政は最大の政策課題だが、これも突き詰めれば少子高齢化にどう対応するか、年金医療・介護の問題をどう解決するかというところにいきつく。

 子供は社会が育てるもの、社会の資産であると考えてバックアップしていくという考え方があるが、それは非常に大切な政策だ。

司会 韓国の場合はどうか?

趙 韓国も同じ問題を抱えている。そこで少子高齢化や財政健全化について日本が立てている政策は、韓国にとっても参考になると思う。そのためにも政策を立てる上での経験を共有したいと考えている。新聞を見ると、中国は日本の政策のいい部分、悪い部分を両方見ているが、韓国もそういった考えを持っている。

 日本は5人に1人が高齢者で、韓国はまだそこまでいっていないが、少子高齢化のスピードは速い。どういう政策をとるのかがとても重要になっている。日本側と政策の経験を話しあえる場をたくさん作っていければいいと考えている。

 吹田 日本から学ぶとすれば、日本の政策の失敗を繰り返さないようにということだと思う。結局、歳入を増やす以外に手はないが、それは一般消費税ということになる。過去10年間、2年おきに1%ずつ上げてきたとすれば、現在の消費税は10%を越え、財政難は相当に軽くなっていたはずだ。そうすれば、ここまで苦労することはなかった。韓国は早めに政策をとることを心がけて、日本から学べばいいのでは。

 高安 少子化問題は韓国の方が深刻だし、非正規職については、保護法の制定など韓国の方が政策面で日本に先んじている状況だ。財政の健全性は、日本はOECDで最悪、韓国はOECDで最高水準という状況であり、日本が韓国から学ぶ状況になっている。

 少子化だが、合計特殊出生率を見ると、2009年段階で韓国は1・15。日本は1・37で、両国とも低水準であるが、韓国の方がより低い。日韓の少子化の要因としては、非正規雇用の問題がかなり大きいと考えている。非正規職は将来的に給料が伸びず、雇用も不安定なので結婚できない。また結婚しても将来不安のため、子供を持つ決断ができない人が相当増えている。それと韓国は、教育費負担が日本に比べて大きい。韓国の少子化が更に深刻となっている理由は教育費だ。ここは韓国に抜本的な政策をとってもらって、これに日本が触発されることが重要ではないかと思う。

 非正規職問題については、07年に非正規職保護法が制定された。ここで一番重要な点は、2年以上勤めた有期雇用者を無期雇用に転換するということだ。ただしこの政策が韓国で成功したのかというと、あまり成功していない。有期雇用者が2年間働くと契約が更新されずに、辞めさせられて逆に職を失うケースが続出している。この韓国の経験は日本に示唆を与えている。安易な規制をしても非正規雇用問題というものは解決できない。

 財政については、日本が韓国から学ぶべきだ。日本は高齢化社会なので、社会保障費が巨額となる構造になってしまっているということもあるが、韓国では均衡財政の思想が、国民にレベルまで広がっている。

 政府が財政赤字を増やして無理な財政政策をとろうとしても、国民が反対するくらいにならないと、日本の破綻寸前の財政は回復しない。そういった点では韓国から学ぶ面があると思う。

向山 高安先生が、韓国の合計特殊出生率は日本をかなり下回っているという状況を指摘されたが、90年代後半は韓国が日本をかなり上回っていた。出生率が急低下したのは2000年代はじめで、通貨危機後に失業、非正規職の増加など国民生活を取り巻く環境が急激に変わったためと考えられる。非正規職の増加に示される雇用環境の悪化が、韓国の少子化の最大の要因であることを踏まえれば、少子化対策は実は雇用問題と捉えるべきであろう。いかにして質の高い雇用を作り出すのかという方向で解決していくことが望まれる。

 非正規職保護法は日本に先行して韓国で制定された。その効果を検証していくとともに、どこに問題があるのかを検討することが必要であろう。

奇 私はグリーン成長について話したい。韓国政府は緑色成長委員会を08年に設置し09年から13年までの五カ年計画を立てた。

 韓国は1912年から08年までに平均気温が1・7度上昇した。ある統計によれば、21世紀末まで100年間の予想で6・4℃上昇するという問題を抱えている。韓国のエネルギー比重は、石油が43・6%、石炭が24.・3%で、原子力15・9%、LLG(天然ガス)13・7%、その他が2・5%となっている。委員会は三大戦略として国家戦略を立てている。1番目は気候変化に対するエネルギー自立をどうするかで、CO2のガス削減のことでこれを一番の対応策に挙げている。2番目に新成長動力をどこで見つけるのか。新技術開発をするために政府はR&Dに投資することになっている。グリーン技術開発には国際協力が絶対に必要だとの認識を持って、日本と協力する話がたくさん出てくると思う。

 放送、通信、IT、特にITは自動車の技術を融合する研究をすでにこの委員会で始めている。3番目に全国土、交通、生活の場でグリーン化の計画を立てている。3大戦略として09年から始まっているが、環境問題は韓国だけの問題ではないので、日本との政策協力とか、共同研究することが必要だと思う。

吹田 グローバリゼーションのもとで、先進各国の労働所得が増えるテンポは鈍くなる。そこで各国は、グローバリゼーション下における分配問題という新しい課題に共通して直面している。米国のように所得格差ができてもかまわないとするか、もう一つは北欧のように、社会保障をしっかり行って全体として安定社会を作るというやり方がある。3つめはドイツの製造業に用いられる時間短縮、ワークシェアリングだ。

 私は経済合理性だけの考え方をとっている以上は解決しないと思う。ソーシャルジャスティスという考え方を経済政策の中に持ち込んでいかないと、この問題は日本でも韓国でも解決しないと思う。働く人たちが、きちんとした職業について技能を身につけ、仕事への満足度も得て、人生の満足度と同時に家庭の満足度も得ていく。社会的正義論を持ち出してこの問題を解決する。そうすると非正規雇用を放置していいのかとなる。20代の若者が結婚もできないまま、放置していいのかと。それは本人はもちろん、社会にとって非常に大きなマイナスを生んでいることに目覚めて、そういう観点から非正規雇用の問題を解決していくかという新しい考え方をここで作らないと経済合理性では解決しない。

司会 韓国では李大統領が公正社会を打ち出しているが。

 趙 韓国は97年の金融危機以降、成果主義が導入された。その結果、社会の格差が拡大された。その格差をなくすためには機会均等の相生社会の構築が必要になる。そこで大統領自ら、公正社会の実現について訴えている。

司会 日韓の産業協力の可能性についてはどうか。

向山 一時期、韓国で、「サンドイッチ論」というのがあった。韓国は日本と中国に挟まれて、この状態から抜け出すことが課題であるというものだった。今の日本の感覚からすれば、この中間にはさまれていた韓国が急速に日本のレベルに近づいているという認識である。

 なぜそうなったかというと、通貨危機後、韓国企業はグローバル展開を加速させていった。特に2000年代に入り、日本企業がそれほど進出していない新興国を中心にシェアを確実に広げていった。逆に、日本ではバブル経済崩壊の後遺症もあって、企業の海外ビジネスは縮小してきた。グローバル化を加速させてきた韓国と、縮小してきた日本との違いが出ている気がする。あと日本と韓国の経済関係のなかで一番大きな問題が、FTA交渉が中断していることだ。

 韓国は日本に対して利益の均衡を図るために、産業協力、非関税措置の撤廃、政府調達の市場開放、農業分野の開放を求めたが、交渉の最初の段階で、日本政府が農水産物の市場開放度を引き上げることを拒否したため中断したと聞いている。この局面をどう打開するのかが問われているにもかかわらず、日本政府の姿勢がみえてこない。

 産業協力に関して言えば、通貨危機から韓国経済が再生するとともに、企業の競争力も強くなっているため、政府間レベルでどういう形の産業協力を進めていけばいいのかはっきりと見えてこないのが実状であろう。その一方、2国間ということではなく、アジア全体のなかで考えれば、アジアの発展のために2カ国が協力してインフラの整備、開発基金の創設、人材育成などで協力できる分野はかなりある。

 日韓の企業が様々な形で業務提携をする、貿易や投資を通して経済関係が緊密になる。そういう民間の経済活動を行いやすくする環境作りが一番の産業協力ではないかという認識を持っている。

奇 韓日の産業協力に関して長年携わってきた。その経験によれば、5つのプロジェクトで長く続いている。一つが99年から始まった韓日産業貿易会議(07年から韓日・日韓新産業貿易会議に名称変更)。

 2番目が韓日・日韓経済人会議。これは昨年4月に岡山で開催した。今年は済州道で開催する。これは両国の経済人たちがどう協力してくのか、政府と関係機関に提言する大きな役割を果たしている。3番目が昨年9月29、30日に行われた韓日産業技術フェアだ。これは韓日・日韓産業技術協力財団と政府が共同主催している。

 4番目が韓日・日韓高校生交流キャンプ。これは毎年2回行っている。昨年8月に第15回をソウルで行ったが、両国の高校生が各50名ずつ、計100名が集まって、新しいベンチャービジネスを1週間かけて探して発表する。この高校生たちが将来大きくなったときに、協力することの大切さを伝えていくだろう。

 私は大韓空調というエアコンコンプレッサー会社の代表理事社長をしていた。代表理事副社長は日本人で、日本の役員と韓国の役員が約8年間一緒にやった。私は韓日協力の可能性を現場で確認した。そのベースは相互信頼だ。信頼関係さえできれば、技術もマーケティングも協力関係が深まっていく。

趙 韓日が協力できることはたくさんある。例えばレアメタルの確保。韓国も日本も輸入しなければならないので協力の余地が大きい。他にも互いに協力して投資したり、開発したりすることもできる。

 両国が協力して第3国に進出することが増えれば、信頼性を高め、それによってより産業協力ができる。

高安 日本と韓国の産業構造は非常に似通っているが、それゆえにライバル関係にある。技術がもれることへの大変な警戒心がどちらにもあり、極めて神経質になっているのが今の状況だ。

 政府レベルでは産業交流事業というものをやっている。また日韓グリーンパートナーシップ構想も最近始まった。

 しかし、表面上は連携しようと言ってはいるが、深いところでは「ここだけは見せられません」という感じになっている。産業協力というのは難しい問題だ。

司会 FTAを含めた市場統合の問題だが、今後どうなるか。韓国と米国は実現しているが、韓国と日本はうまくいっていない。

向山 日本の経済界はかなりの危機感を持っている。韓国が米国、EUなどと積極的にFTAを締結したため、巨大市場へのアクセスという点で、日本企業が不利になるのは間違いないからである。このため、経団連は日本政府に対して、もっと積極的に締結するよう働きかけている。日本政府に問われているのは、農業問題をどのように解決していくのかを示すことだ。

奇 日本とのFTAは、03年から04年まで6回協議をしたあと、6年間中断している。初めは農産物問題で日本が積極的に出ないという見方があった。

 08年に李明博大統領がまた開始しましょうということで、10年9月に局長クラスの協議を再開した。

 昨年の韓日・日韓協力委員会合同総会で「韓日両国政府間のFTA交渉が、依然進んでいない点について、互いに憂慮を示して、韓日FTAが両国の経済発展とパートナーシップ発展のために必要であるだけでなく、東北アジア地域における経済統合にも大きく寄与するだろうという認識を我々は民間同士で一致しました。これを両国政府が早期に交渉を再開してください」という内容の共同宣言を出した。

向山 韓国の立場からすると利益の均衡を図るためには、韓国が比較優位にある農水産物分野で、日本側が譲歩してほしいというのが基本的な立場である。日本政府が半分くらいしか開放しませんよということで、その時点で交渉が進まなくなってしまった。

 高安 FTAによって地域的に自由貿易を高めていくことが世界の流れだ。日本はWTOによる自由貿易にこだわり過ぎて、FTAの流れには大きく遅れを取った。韓国も遅れを取っていたが、FTAロードマップ以降は目覚しい進展を果たしている。日韓とも農業問題を抱えているが、日本は農業問題故に市場統合の動きにのれず、韓国は農業問題がありながらも市場統合の動きに乗っている。

 韓国が農業問題を抱えながら、FTAを積極的に進められる理由であるが、韓国においては輸出が成長の生命線であるということだ。

 なお日韓FTAは03年に交渉が始まったにも関わらず、現在は中断した状態である。

 日韓FTAにより韓国の対日赤字が増加するなどの懸念、また一部産業による懸念など様々な問題が、交渉中断の背景にはあろうが、これほど緊密な関係がある国でFTAが締結されていないのは、ある意味お粗末な状況で早期の締結を期待したい。そして日韓がFTAを締結するとともに、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や、環太平洋戦略的経済連係協定(TPP)など広範な地域をカバーするFTAに加入して、FTAを中心とした自由化の流れに乗る必要があるだろう。

司会 日本とFTAを締結すると赤字が増えるというのが、韓国側の最近の消極論点にあるが。

趙 日本とのFTAは韓国側が消極的ではない。韓日FTAに関しては利益が均衡しなければいけないと思う。そのためには日本側も農水産市場開放水準や産業協力等、韓国側の関心事項に前向きに提案を提示すべきだと思う。

向山 韓米FTAが最終的に合意に至ったのは、韓国側が自動車で米国に歩み寄り、そのかわり豚肉を含めて農水産物分野で米国の譲歩を引き出した。こうした経済外交交渉のなかで利益の均衡を図ったわけだ。日韓は交渉の最初の段階で、ボタンを掛け違えた気がする。日本政府が農水産物市場の開放度を引き上げるのを拒否したので、デッドロック状態に陥っている。いまボールは日本側にある。FTAと農業に関して各省の見解は表明されているが、日本側が「政府としての意思」を作り上げていないことが問題だ。

吹田 日本にとって、FTAにしてもTTPにしても、最大の問題が農業であることははっきりしている。私は、農業を振興しようという動きが必ず出てくると思うし、農業従事者の平均年齢が60代だということは、逆に言えば世代交代に差し掛かったと考え、新世代が新農業を作るように持っていけば、それほど悲観的に考える必要はないと思っている。

 世界的に農業の重要性は今後高まりこそすれ、低くなることはない。農業は極めて研究開発型で面白い産業だ。

 将来、世界的に食料需給はひっ迫し、国内で生産する必要は一層高まる。コメ生産も規模を拡大すれば、著しく不利にはならない。また将来、外国産農産物もコストは必ず上昇し、価格差は縮まるだろう。

 FTAとTPPにおいては、日本は決断するべきときがきたと思う。これはグローバル化の中で絶対に避けられないことだ。決断は一日でも早いほうがいい。

司会 最後に、これからはアジアの時代ということで、韓日協力が今後どうあるべきか、語ってほしい。

奇 90年初めに冷戦が終わって世界化が急速に進行し、既存の国家中心の国際関係に代わる、新しい国際秩序が必要な時期にきている。例えば貧困、飢餓、環境、人権、核拡散、テロなどの問題に直面して、その対処について共同で話し合いができるよう、韓国と日本が手を組んで新しい時代を切り開くことが一番可能性が大きいと思う。

 アジアにおいて市場経済と資本主義民主主義の価値を共有できる韓国と日本が、共通の価値観を認識すれば新グローバル時代に対応できる。

趙 私も奇先生と同じ考えだ。韓日は今よりもっと関係を深める必要がある。昨年のG20とAPECでは互いに手をとりあった成果が出た。そういうのを見ると、もっと協力すればより世界を動かすことができると思う。日本は技術と経験を持っている国で、韓国はチャレンジ精神を持っている人が多い。両国が長所を生かして協力しあえば、世界の発展と平和のために貢献できる。

高安 両国を結ぶキーワードは協力と切磋琢磨だと思う。協力には例えば環境問題がある。金融システムもそうだ。アジアのなかで日本と韓国は、一番進んだ金融システムを持っている。両国が協力することでアジアの中核となっていくことが重要だ。切磋琢磨の例では、一つ目は技術だ。昔は韓国が日本の技術を追いかけたが、最近は液晶とか携帯とか、韓国が先行する分野もたくさん出てきた。サムスンが良い例である。

 もう一つはFTAである。韓国はFTAロードマップを作って、米国、欧州などとFTAを結ぶようになった。すると日本がこれは大変だということで、TPPに参加しようとの話が出ている。協力もしつつ、切磋琢磨もしつつ、アジア全体を日、韓が引っ張っていく必要がある。


吹田 日本も韓国も、世界市場のなかでそれぞれの得意分野で、これからの位置取りを決めて進んでいくのではないかと思う。「韓国はマーケティングで日本は技術で」ということでもない。日本企業は技術もマーケティングも一層特化すればよいし、できると思う。そのときに参考になるのが、EUのなかでのドイツのポジションだ。今は中国に抜かれたが、それまでドイツは世界ナンバーワンの輸出額だった。8000万人しか国民がいないが、一人当たりの輸出額にしたら日本よりはるかに上だ。日本とドイツの差は100対60くらいになる。EUの中のドイツが占める割合と同じように考えて、韓日を合わせてアジア「共同体」のなかで位置取りを考えてみてはどうかというイメージがある。さらに極東アジアの安定のために、日韓の平和的な関係をどのように構築していくか。それを目指した会議を作って、長期的に考えてほしい。

向山 われわれの日常生活のなかで韓国の存在が目に見える形で大きくなってきている。日本市場は参入しにくいと言われてきたが、携帯電話市場ではLG、サムスンの製品が日本の消費者に受け入れられ始めた。ゴルフでは韓国人選手が日本で男女ともに賞金王になった。その功績を日本の社会がきちんと評価している。音楽でもそうである。このように、民間レベルでは確実に良い方向に向っており、今後もこうした流れを強めていくことが重要だ。アジア全体の発展のために多分野でお互いが協力する可能性が出てきているので、その機会をうまく活用すべきであろう。

司会 長時間ありがとうございました。