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2011/06/03

<総合>韓国経済に明暗交差

  • 韓国経済に明暗交差

    積み込みを待つコンテナでいっぱいの釜山港

 最近の韓国経済は明暗が交差している。韓国は厳しい経済環境の中でも4%台の成長を維持している優等生国だ。成長を牽引する輸出は5月も好調を持続、年初から20%を超す伸びを続けている。電子などの産業競争力には定評があり、サムスンや現代自動車など財閥企業の世界市場での活躍がめざましい。だが、中小企業や庶民には成長が実感できない。むしろ家計負債がかさみ、貧富の格差が広がり出している現実がある。特に、政府の度重なる対策にもかかわらず4%以上の物価上昇が続いており、庶民生活に影が差している。こうした現状を踏まえ、李明博大統領は閣議で、内需を拡大させる対策を積極的に講じるよう指示した。

 韓国経済の「明」は、好調が続く輸出だ。知識経済部によると、5月の輸出は前年同期比23・5%増の480億900万㌦を記録した。これで1~5月の輸出累計は2284億7200万㌦を記録、27・4%の高い伸びとなった。

 5月の輸出は、石油製品や船舶などの主要輸出品目の増加幅が拡大。特に、石油製品が87・0%、無線通信機器33・9%、石油化学26・7%と高い伸びをみせ、次いで自動車、船舶、鉄鋼、自動車部品が20%台の増加率を記録した。

 知識経済部は、石油製品は国際原油価格の上昇で輸出単価が上昇、船舶は高付加価値船舶の引き渡しが拡大して好調な実績になったと分析した。

 一方の輸入は29・9%増の452億6200万㌦で、貿易収支黒字は27億4700万㌦に達した。1~5月の貿易収支は157億5400万㌦に達し、昨年同期の27億4600万㌦に比べ6倍近く増えた。

 国際収支も改善著しく、韓国銀行によると、4月の経常収支は18億8000万㌦の黒字だった。これで14カ月連続の黒字となった。やはり、輸出の好調で貿易収支が拡大したことが大きかった。

 電子、自動車、造船など各産業の国際競争力強化が輸出増大につながり、国際収支を改善させ、経済成長を支えるという好循環が現在の韓国経済の構図だ。

 だが、影がつきまとっているのも事実だ。「経済のトライアングル」という言い方がある。マクロ経済を見る際、最も重要な景気、国際収支、物価の3つを指した言葉だ。いま韓国で最も頭を痛めているのが物価だろう。

 ガソリンや豚肉価格の急上昇で年初から大きな問題だった。このため、不動産抑制やガソリン値下げなどの物価対策が何度も打ち出された。

 だが、物価は高止まりが続いている。統計庁によると、5月の消費者物価も前年同月比4・1%上昇。5カ月連続で4%台の上昇となった。今年は特に、エネルギーや食品価格など生活関連の上昇が目立ち、畜産物や水産物は5月もそれぞれ10%、9・3%の高い上昇率を示した。

 李大統領は5月31日の閣議で、「輸出で成果を上げているが、相対的に国内市場が小さく、庶民が肌で感じる景気は厳しい。内需を拡大してこそ庶民が暮らしやすくなる」と指摘。下半期(7~12月)に内需拡大と中小企業の救済策を検討するよう指示した。

 家計負債も急増している。韓国銀行によると、3月末現在の家計負債は801兆3900億ウォン。ついに800兆ウォンの大台を突破した。2年前の683兆ウォンより116兆ウォンも増えている。無理な借金でマイホームを手に入れた後、ローン返済に苦しむ家計問題が経済の時限爆弾として浮上しているとの指摘もある。

 さらに、統計庁の産業活動動向によると、4月の韓国の主要経済指標は揃って悪化し、景気後退の懸念が高まっている。鉱工業生産は前月比1・5%減少。特に設備投資は1年6カ月ぶりにマイナスとなり、今後の景気動向を示す先行指数も3カ月ぶりに低下した。

 英国の有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は5月30日付の「分離された経済」と題する記事で、「韓国経済は傍目には良好に見えるが、実際には貧富の格差が激しい」と指摘。次のような問題点を指摘した。

 ①財閥企業が急速な経済回復をリードしたが、その裏には中小企業の危機や個人負債問題が隠れている②富裕層と庶民層の格差が大きい韓国経済の状況が、高い自殺率の原因のひとつだ(人口10万人当たり自殺者で表される自殺率は昨年21.9で世界9位)。高い自殺率は部分的に脆弱なセーフティーネットと雇用不安、高い青年失業率などに起因している③経済の二極化は、強力な輸出伸長勢と貧弱な国内消費の基礎体力を見せつけるマクロ指標にも表れている。例えば、現代自動車の輸出は昨年18%増えたが、国内販売は6%減少した④家計負債が、所得の146%にのぼり、米サブプライム問題初期の138%を超えている⑤政府が貧富の格差解消を優先課題とみて、財閥企業が利益を社会に還元するよう圧力をかけているが、まだ大きな効果をあげていない。

 同紙は結論として、財閥企業は海外で利益を上げているが、内需市場で雇用を生み出せず、韓国経済は依然と少数財閥の影響下に置かれていると主張している。

 厳しい指摘であるが、影の部分を看過してはならないだろう。手の施しようのない状態になる前に対策を講じて解決する必要があろう。