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2002/08/16

<鳳仙花>◆朴慶植文庫◆

 滋賀県立大学で「朴慶植文庫」づくりが進められている。戦前から90年に及ぶ在日同胞に関する資料をコツコツ集め、晩年は「在日同胞歴史資料館」建設に心血を注いだ朴慶植氏が4年前に交通事故死した。その朴氏が残した6万点の膨大な資料を収めることになっており、在日同胞の歴史資料室としては最大規模になるだろう。

 膨大な資料は1300を超す段ボール箱に詰め込まれた。この4年間に3万6000点の仮目録ができ、6600点はオンライン検索もできるという。
だが、まだ手付かずのダンボール箱も多い。資料整理にあたっている同大講師の河かおるさん(朝鮮史専攻、30)は、「大切な資料なのでしっかり整理しなければならないのですが、何しろ人手が足りません」と孤軍奮闘の状態だ。

 朴慶植氏が75年の生涯をかけて蒐集した資料は、戦前・戦後を通じて在日が置かれた歴史的状況を伝える貴重な宝庫であり、在日史だけでなく、韓国、日本の近現代史研究にも欠かせない。その重要性に注目していた韓国の国史編纂委員会が学術交流を申し出、来年から共同研究することで合意した。今後、文庫整理や劣化した資料のマイクロフィルム化、目録や資料集の刊行などを共同で進めていく。河さんもほっと一安心だろう。

 過去の歴史を知らないと現在を語ることはできないし、未来もみえにくくなる。これは生前に朴氏が口癖のように言っていた言葉だが、在日の若い世代にとってこの過去の歴史とは祖父母や両親、先輩たちの苦難と闘争に満ちた歩みにほかならない。どうやって生きてきたのかを実物資料によって知ることが大切だろう。

 考えてみれば、在日は自らの歴史を体系的に知ることができる博物館はおろか資料館ひとつもっていない。情けないことだ。もう展示効果、イベントに熱中する時代は終わった。資力、知力を投じて朴慶植文庫も含む「在日史の殿堂」を建設すべきだろう。(S)