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2003/09/19

<鳳仙花>◆レニの遺産と孫基禎◆

 ドイツの映画監督レニ・リーフェンシュタール女史が今月8日、ミュンヘン郊外の自宅で亡くなった。101歳の大往生だった。レニといえば、ニュルンベルクのナチ党大会や1936年8月のベルリン五輪の記録映画「オリンピア」で有名だ。

 「オリンピア」は、ナチスのプロパガンダのために撮られた映画だが、そこに刻まれた映像は歴史の真実を語っている。とりわけ、ベルリン五輪のマラソン競技の映像は、韓日の歴史を振り返るうえで、かけがえのない記録といえるだろう。ベルリン五輪のマラソンでは、韓国人の孫基禎選手と南昇龍選手が胸に日の丸をつけて走り、孫選手が金メダル、南選手が銅メダルを獲得した。

 映画は、35㌔手前で一気にスパートした孫基禎の姿をとらえる。孫の一人舞台となり、首を左右に振る独特のフォームで力強く駆け抜けていく。沿道の観客が巨大な日の丸をふりかざして応援する姿も見える。40台のカメラをいたるところに据え付け、あらゆる角度から撮影された映像は、迫力と美の極致で、計算しつくされたアングルと大胆なモンタージュ手法はいま見ても新鮮だ。

 最後まで孫の走りは衰えず、堂々と誇らしげにゴールに駆け込む。しかし、表彰式では、君が代が流れるなか、月桂冠を戴く孫は終始うつむき、日の丸の掲揚に肩を落とす。このときの屈辱と無念の思いはいかばかりであったか。その姿をカメラに収めたレニは、3日後に自宅に孫を招いた。その後、56年と91年にドイツを訪問した孫は、レニと再会し抱き合っている。

 この映像を撮り、後世に残してくれただけでもレニの功績は大きいといえる。時代は変わっても、歴史の真実は変わらない。「オリンピア」を見るたびにそう思う。(N)