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2003/05/02

<鳳仙花>◆日本近代美術の里帰り◆

 イラク戦争が終結し、ほっと安堵したが、ひとつ心が痛むことがある。戦火の中、古代ペルシャの遺物など貴重な文化財が何万点も略奪され、流出してしまったことだ。

 そんなことを考えながら、東京・上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「日本近代美術展」に足を運んだ。韓国国立中央博物館が所蔵している日本画や工芸品の「里帰り」展で、横山大観、川合玉堂、鏑木清方ら大家の名品が半世紀以上もの時をへて日本で初公開されている。

 大観の幽遠で壮大な水墨画、三木翠山の繊細でうっとりさせる美人画、富本憲吉や松田権六ら名工たちの工芸品などすばらしい作品の数々に息をのんだ。

 これらの美術品は、植民地時代に李王家美術館が所蔵していたものだという。文化統治の名目で、日本から半ば強制的に購買させられたものであろう。しかし、これらの作品は、日本近代美術の粋をあますところなく伝える貴重な文化財であり、保存状態も良好だ。まかりまちがえば、侵略国の美術品として、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないが、廃棄されていたかもしれない。

 先の第2次大戦で、ヒトラーは自身が画家志望だったせいもあり、侵略国の美術品を略奪することにことのほか熱心だった。しかし、自分の気に入らないものは「退廃芸術」として廃棄処分にしたため、多くの貴重な文化財が失われた。文化は人類の知恵の結晶であり、個人や国家のレベルを超えて、人類の共通の遺産として後世に伝えていていく義務があると改めて痛感した。文化財は一国の財産であるばかりでなく、人類の宝であり、世界的視野に立って保存していくことが大事だと思う。

 同展は5月11日まで。その後、5月20日から6月29日まで京都国立近代美術館でも公開される。(N)