ここから本文です

2008/11/07

<鳳仙花>◆在日1世の苦闘の歴史学ぼう◆

 在日1世が次々と亡くなる中、その歴史をどう伝えるかは、在日社会にとって大きな課題の一つといえる。

 在日1世の聞き取りや証言集はこれまでもいくつか出ているが、強制連行、差別や貧困の体験などが主であったため、在日2、3世にとってはルーツを自覚するどころか、「もう暗い歴史は読みたくない」「1世の恨み、つらみを聞かされるのは真っ平だ」などの反発の声さえ起きていた。

 歴史を伝えていくことの難しさを感じさせるが、そんな中、貴重な証言集が出た。「在日一世の記憶」(集英社新書)がそれだ。日本植民地時代に生を受け、様々な事情で渡日し、そのまま日本で暮らし続けた在日1世52人の聞き取りである。

 在日と日本人の学者、ライターの共同作業で、2003年3月にスタートし、完成まで5年半かかった企画だ。この本がそれまでの証言集と違うのは、取材対象が多岐に渡っていることだろう。

 1948年の済州島4・3事件の混乱から逃れた詩人の金時鐘さんは、「在日を生きる」ことを語り、在日の人権、民族融和を主張して日本社会に大きな影響を与えてきた。ほかにも、朝鮮市場、コリアタウンを守り発展させた1世、ハングルソフトを開発した企業家、人権運動の先頭に立ったクリスチャンなどの生き様が語られる。

 在日1世は流浪の民として多くのものを失ったからこそ、必死に生き闘った。その結果として、戦後日本の経済発展を下支えし、国際化にも少なからず貢献してきた。

 「偏見や差別のない社会を残すことは、日本社会への貢献にもなる」。人権運動の先頭に立った1世の言葉は、私たち2、3世を改めて勇気付けてくれる。

 この証言集に収められたのは在日1世のごく一部であり、すでに鬼籍に入った人も数多い。在日1世の苦闘、格闘の軌跡から学ぶべきことは多い。その歴史を掘り起こし、学んでいきたい。(L)