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2008/07/11

<鳳仙花>◆「共生」に尽くした李仁夏牧師◆

 「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。死なば多くの実を結ぶ」(ヨハネ伝第12章24節)

 在日大韓基督教会川崎教会名誉牧師で社会福祉法人青丘社(神奈川県川崎市)の理事長の李仁夏さんが6月30日、間質性肺炎のため亡くなった。享年83歳。李さんを思うとき、聖書のこのことばがすぐ頭に浮かぶ。在日韓国・朝鮮人が多く住む川崎市桜本に落ちた「一粒の麦」は、在日の差別撤廃運動に取り組み、在日や他の外国人と日本人との多文化共生社会の実現という豊かな実をみのらせた。

 李さんは1959年に桜本の教会に赴任した。まだ在日に対する差別が激しい時代で、在日の子どもは市の幼稚園にさえ入れなかった。これに心を痛め、69年に国籍に関係なく入園できる桜本保育園を開園、さらに73年に社会福祉法人・青丘社を立ち上げ、ここを拠点に在日への理解と差別撤廃に向け地域住民との交流を促進した。これが市の多文化共生施設「川崎市ふれあい館」の誕生につながったことは特筆に価するだろう。

 川崎が全国に先駆けて公務員の国籍条項を撤廃し、市の一般職員に在日を採用したのも、李さんの人権運動の成果といえる。また、市が外国人市民代表者会議を設置するきっかけをつくり、第一期と第二期の委員長として教育や就職差別、入居差別などの解決に当たった。

 たびたび取材先でお会いし、インタビューにも応じていただいたが、いつもにこにこと笑顔を絶やさず、他人を抱擁するような温かさがあった。在日だけでなく、多くの日本人にも慕われた人格者で、その死は惜しみて余りある。

 李さんが語った忘れられないことばがある。「在日の存在は、真珠貝の核のようなもの。貝は異物が入り込むと排除しようとする。しかし、その異物がなければ、きれいな真珠は生まれない。在日は日本社会の核の役割を担う貴重な存在だ」。合掌。(G)