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2009/01/16

<鳳仙花>◆在日史の縮図「焼肉ドラゴン」◆

 在日の歴史を真正面から見つめた演劇が、韓日両国で高い評価を受けている。在日2世の鄭義信氏(51)が作・共同演出した韓日合作劇「焼肉ドラゴン」だ。

 韓国で昨年末に「韓国演劇評論家協会ベスト3」などに選ばれ、日本でも「第8回朝日舞台芸術賞グランプリ」を受賞した。「第16回読売演劇大賞」の作品賞、男優賞、女優賞にもノミネートされている。「2008年演劇界の突出した成果」との声さえある。

 万博が催された1970年の大阪を舞台に、時代の片隅に生きる「焼肉ドラゴン」という小さな焼肉屋の家族を描いたもので、ゴーリキーの『どん底』をイメージしながら作ったという意欲作だ。

 主人公の父親は、太平洋戦争で片腕を失っている。故郷は済州島だが、1948年のいわゆる4・3事件という島民虐殺事件で、親兄弟が殺され、祖国に戻ることをあきらめている。帰国事業で「地上の楽園」と宣伝された北朝鮮に夫婦で渡ることを決意する長女、逆に韓国での生活を考える次女など、家族は南北と日本に生き別れることを暗示している。

 「一つの小さな家族にどれだけ大きな歴史が刻まれているか、それを描きたかった」と鄭氏は語っているが、この家族の悲しみ・苦しみは、多くの在日が抱えてきた歴史の縮図である。それを鄭氏は決して声高に叫ぶことなく、喜怒哀楽をまじえ、人間の生命力、バイタリティーに託して描いた。笑いあり、涙ありの芝居に家族愛・人間愛をも考えさせる作品だ。

 主演の夫婦は韓国の俳優が演じたが、韓国人俳優のたどたどしい日本語が1世の哀感をうまく表現し、在日がみてもリアリティーがある。それが韓日両国で観客の感動と共感を呼んだのだろう。韓日合作の大きな成果といえる。

 「焼肉ドラゴン」は再演が計画されているというが、ぜひ実現してほしい。そして鄭義信氏のさらなる活躍を期待したい。(L)