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2009/01/23

<鳳仙花>◆韓国で世界文学全集ブーム◆

 韓国を代表する出版社、民音社で出版された「世界文学全集」全200巻が完結し、累計600万部を超えたという。1巻平均3万部の売れ行きであり、純文学としては驚きの部数だ。日本などでも純文学作品は売れなくなっているが、韓国も同様だった。それだけにこの世界文学全集の成功の秘密は何なのか、探ってみる価値がありそうだ。

 全集の刊行は、1998年の第1回配本、古代ローマのオビディウスの叙事詩「変身物語」から200巻目の許?(ホ・ギュン)の「洪吉童伝」まで10年余に及んだ。最初は売れ行きが芳しくなかったが、50巻目ごろから評判を呼び、他の出版社も刺激を受け、世界文学全集出版ブームとなった。

 それまで韓国で世界文学全集といえば、日本語訳の重訳や逐語訳的なこなれない翻訳が少なくなかった。民音社は、最高の編集スタッフをそろえ、「水準の高い翻訳」をめざした。朴孟浩会長は、「よい本は売れる」との信念で全集発刊に取り組んだが、まさにその通りになった。

 全集の中で、最も人気が高かったのはサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」(35万部)。次いでオースティンの「高慢と偏見」(32万部)、オーウェルの「動物農場」(20万部)と続く。日本でも村上春樹の新訳で「ライ麦…」は話題を呼んだが、時代が読者の嗜好を決めることもありそうだ。ともかく、名著は万国共通であり、最も多くの作品が収録されたのはシェークスピアとゲーテだった。

 韓国にはもともと文字文化の奥の深い伝統がある。それが純文学の下地にもなっているが、名著とされる世界の文学作品に触れることは、知性・教養を深めるのに欠かせない。いまのような混迷の時代には、特にそのような品格を備えたリーダーが必要であり、200巻もの世界文学全集成功で、未来への希望が膨らんでくる。出版に限らず、様々な分野で知性・教養を高める活動が展開されることを期待したい。(S)