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2014/10/10

<鳳仙花>◆民族差別に反対した故米倉斉加年さん◆

 日本を代表する俳優の一人、米倉斉加年さんが亡くなって1カ月が過ぎた。大河ドラマ「風と雲と虹と」や舞台「放浪記」など数多くの作品に出演し、演出家、絵本作家としても活躍した稀有な存在だった。その米倉さんが、日本社会に内在する朝鮮人差別に反対し、平等と平和を希求した人物であったことは決して忘れてはならないだろう。

 米倉さんは1934年、福岡生まれ。朝鮮や被差別部落の子どもたちがいじめられるのを見た米倉さんは、子ども心に大きな疑問を持った。また米倉さん自身も疎開先で激しくいじめられ、差別の理不尽さを実感したという。演劇仲間に在日の青年がいたことも大きな影響を与えた。

 1979年、米倉さんは在日食品メーカーのテレビCMに出演した。韓国の民族衣装パジチョゴリでテレビ画面に登場し、「チョーセンの味」と叫んだ米倉さんの姿は、いまも忘れられない。いまでこそ韓国料理やキムチがブームとなっているが、当時は「チョーセン」はタブー視されていた。米倉さんは仕事が激減し、子どもは「朝鮮人」といじめられたという。しかし、毅然とした態度を決して失わなかった。ただのCM出演ではない覚悟が、米倉さんにはあったのだろう。その信念に改めて敬服する。

 米倉さんが76年に発表した絵本「多毛留(たける)」は、漁師の父と、父が朝鮮から連れてきた母との間に生まれた多毛留が主人公だ。朝鮮と日本との関わりを簡潔な文章と細密な絵で描き、「人の心に国境はない」ことを訴えた。この作品は77年ボローニャ国際児童図書展グラフィック大賞に輝いた。韓国の戯曲「銅の李舜臣」を日本で演出・主演するなど日韓交流にも尽くした。もっと活動してほしい人だった。

 富山県の黒部市美術館ではいま、「米倉斉加年の世界 絵本原画展」を開催、「多毛留」の原画も展示されている(26日まで)。その作品世界にぜひ触れてほしい。(L)