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2012/09/28

<Korea Watch>サムスン研究 第17回 ソフト開発とデザイン                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第17回 ソフト開発とデザイン

◆産学官連携で三方一両「得」の好循環生む◆

 サムスン電子は14の大学とSTP(Samsung Talent Program)を締結し、早期の人材発掘を加速化している。

 STPは技術系人材育成のためにサムスン電子と大学が緊密に連携し、政府・自治体の支援を受けて、必要な技術と教育カリキュラムを設け、それを学生たちが履修するものである(図表)。

 教育科学技術部がIT分野やデザインの専門家養成を支援する「教育能力強化事業」、知識経済部が支援する「産学協力中心大学育成事業」等がある。

 サムスン電子は、2006年から大学との協力関係を推進し、11年からは産学協力の名称をSTPに改めた。

 サムスン電子は、カリキュラムの開発および円滑な運営のために、大学ごとに毎年1億ウォンの運営資金を提供する。

 専門カリキュラムを受講した学生は、サムスン電子の現場でインターンの実習を受けた後、サムスン電子は、優秀な学生を大学別に年間5人ずつ選抜して、彼らに1000万ウォンの奨学金を与える。

 奨学金を受け取る学生の中からさらに選び抜かれた学生は、サムスン電子への就職が保証される。

 11年5月、サムスン電子はソウル大学校と共同でソフトウエア共同研究センター(CIC/Center for Intelligent Computing)を設立した。CICはソフトウエアを研究する開放型研究センターで、ソフトウエアに関心がある学生たちは誰でも参加して活用できる空間である。

 同センターは、サムスン電子・ソウル大の共同研究テーマやソフトウエア分野における未来シナリオを導き出し、斬新なアイディアの発掘と実現など、多様なプログラムを運営している。

 11年11月、サムスン電子は成均館大とIT人材養成のためソフトウエアSTP協約を締結した。サムスン電子と成均館大は協力して、ソフトウエア・アーキテクチャーとプラットホーム専門家を養成する計画である。

 このプログラムは学部と大学院を統合して5年制の「学・修士連携課程」として運営される。学生たちは実務プロジェクトに参加し、インターンシップ等を通してソフトウエア能力を高めていく。学生たちは2学年2学期にサムスン電子採用試験を受けることができ、合格した学生は、サムスン電子の就職が保証されるとともに、3年間サムスン電子から奨学金も支給される。

 11年末には、漢陽大にサムスン電子への就職を保証する「ソフトウエア専攻学科」が新設された。

 ソフト開発同様、サムスン電子が重視しているデザイン分野においても、デザイン競争力の核心となる機構・金型分野の強化で大学との連携を強めている。

 11年8月、金型技術者を育成するために、「サムスン電子先端金型技術専攻プログラム」協約を、3つの大学と締結した。

 協約締結大学は、亜洲大(射出成形・工程部門)、西江大(プレス成形・工程部門)等である。17年までの5年間に60人(博士20人、修士40人)の高度な金型技術者を育成する計画である。

 このようにSTPは大学生たちの進路決定と就職の保証に具体的なサポートを与え、企業立場からは優秀な人材を青田買いできる。しかも会社側にとって大卒者に対する新入社員教育や再教育費用を減らすことができるというメリットも加わり、双方にwin―winの関係を生んでいる。また、サムスン電子が将来有望と位置づけている領域に対して、教授らと共に応用研究や製品化・事業化に向けての共同研究もできるなど、交流範囲を広げている。

 さらにSTPによる産学官の戦略的連携は、当該大学の競争力・知名度を高め、その大学・学科のある地域の経済活性化にも寄与するという三方一両「得」の好循環を生んでいる。

 ただ問題が無いわけではなく、大学時代に奨学金を受け取り就職も保証される人はごく一部であり、取り残された多くの学生が就職難に見舞われており、韓国では20代の高い失業率が深刻な社会問題となっている。