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2012/10/26

<Korea Watch>サムスン研究 第21回 スポーツマーケティング                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第21回 スポーツマーケティング

◆グローバルブランドとして世界に誇示する絶好の機会に◆

 7月27日から8月12日の期間、第30回ロンドン五輪が開催される。すでに6月からサムスン電子は聖火リレーなど、五輪マーケティングを展開している。

 海外でブランド認知度を引き上げるには、スポーツの中でも五輪は断トツの効果がある、というのがサムスンの経験だ。

 李健熙会長は、1997年に4500万㌦かけて五輪公式スポンサーになることを決めた。それまでの五輪公式スポンサーはVISA、IBM、コカコーラ、コダックなど先進国の超一流企業が独占していた。

 翌年の長野冬季五輪の時から公式スポンサーとしての活動を始め、このときの手ごたえが、サムスンの五輪マーケティングに火を付ける契機となった。

 08年の北京五輪は、サムスンの認知度をどれほど高め、購買に結びついたかを見せつけた象徴的なイベントとなった。市場調査機関GfKによれば、北京五輪開催直前11・4%であったサムスンの中国における携帯電話の市場占有率は、五輪以後21・2%に跳ね上がった。中低価格製品を作る家電メーカーという企業イメージは、五輪公式スポンサーを重ねる度に、携帯電話やデジタル機器を生産し、先端IT (情報技術)で世界をリードする会社に変貌していった。

 ロンドン五輪開幕を知らせる聖火リレーに参加する有名人らの胸には「SAMSUNG」という青いロゴが刻まれている。また、五輪メインスタジアムの脇には製品広報館が設置され、競技場のあちこちにサムスン製品の広告看板が配置される。

 ロンドン五輪に参加する企業の中でも、最も高いランクのスポンサーであるTOP(The Olympic Partner)は、コカコーラ、エイサー、Atos、ダウ、GE、マグドナルド、オメガ、パナソニック、P&G、サムスン電子、VISAの11社である。

 IOC(国際オリンピック委員会)は、85年から自動車、電子など産業分野別に1つのグローバル企業と4年単位のパートナーシップを結ぶTOPを導入し、五輪マーケティングに関する独占的な使用権を認めた。

 サムスン電子がモバイル分野の公式スポンサー、パナソニックがテレビ分野の公式スポンサーとなっているため、サムスン電子は、スマートテレビを五輪マーケティングの対象から外さざるを得ない。

 公式スポンサーの費用は、開催のたびに急騰している。88年のソウル五輪は1100億ウォン(9社)に過ぎなかったが、08年の北京五輪では9900億ウォン(12社)、そして今回のロンドン五輪では1兆2000億ウォン以上(11社)と推計されている。実際のマーケティングのために投資する金額まで含めるならば、11社の五輪に関わる総費用は、2兆ウォン以上に膨れ上がる。

 五輪だけではない。サムスン電子は05年に約1000億ウォン(5年間契約金額)を投資して、イングランドプレミアリーグ・チェルシーのメインスポンサーになった。チェルシーのユニフォームには、サムスンのロゴがいつも輝く。

 今年5月、サッカーファンの耳目を惹きつけたヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝戦(独ミュンヘン)で、PK戦の末、優勝カップを手にしたのはチェルシーであった。優勝が決定した瞬間、サムスンのロゴは全世界のサッカーファンの目に焼き付けられた。

 チェルシーの本拠地・英国において、サムスン電子の売り上げは、後援前の04年に比べて11年には3倍近い伸びを記録した。チェルシーへの後援は、サムスンの認知度・親近感だけでなく、高級ブランドイメージにも少なからず好影響を与えていると評価されている。

 英国消費者連盟は、今年初め7社のテレビメーカーを総合的に評価し、サムスン電子を2年連続して最高テレビブランドに選定した。五輪、そしてサッカーなどを活用したグローバル・スポーツ・マーケティングが、サムスン電子のブランドイメージを確実に引き上げている。

 18年に韓国江原道平昌で開催される冬季五輪は、去年7月に李健熙会長自ら南アフリカに出掛けて勝ち取ったビッグイベントである。

 6年後のスポーツマーケティングは、韓国内で開催されるだけにヒートアップし、ブルーフラッグ一色に染まった映像が世界に発信され、グローバルブランドとしてのサムスンを世界に誇示する絶好の機会となろう。