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2012/11/02

<Korea Watch>サムスン研究 第22回 加速するスピード経営                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第22回 加速するスピード経営

◆米市場のプレミアム製品投入による超格差戦略◆

 サムスン電子の北米市場への本格的な進出は、2001年に米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市CES(Consumer Electronics Show)の参加に始まった。その後、アテネ五輪(04年)聖火リレーを通したスポーツマーケティングを積極的に展開することで知名度を上げ、年末には米女性ファッション紙ヴォーグと戦略的パートナーシップを提携し、ファッションモデルを通じてサムスンの携帯電話をリリースし、洗練されたデザインとプレミアム・イメージを強調する戦略に打って出た。

 マーケティング戦略が先行する中、しばらく販売が伴わない状態を続けたが、北米市場への攻略が成功を収めたのは、06年の液晶テレビ「ボルドー」の販売からである。さらに知名度と売上げがかみ合ってきたのは、09年のLED (発光ダイオード)テレビ、10年の3D テレビ投入を契機としている。この時を境に北米市場では、サムスン=高級製品というイメージが定着していった(図表)。

 高級イメージを決定的としたのが携帯電話ギャラクシーSシリーズである。10年3月から今年7月まで、サムスン電子が北米の携帯電話市場で占有率1位を堅持している。ギャラクシーS3を英国、中東に続き北米市場でこの6月から発売し、マーケティング活動にも拍車が掛かっている。今年下半期には大型有機発光ダイオードを量産化する動きであり、他社より先行する形で北米テレビ市場の支配力を強化している。ここ数年、新製品投入の短周期化がシェアトップの原動力となっており、2位企業との超格差をつけている。

 またサムスン電子は米国産業デザイナー協会(IDSA)が主催する世界最高権威のデザイン公募展「IDEA2012」では最多受賞企業となった。サムスン電子は企業部門で金賞4個・銀賞2個・銅賞1個の計7個の賞を受賞、とくに最高革新賞を受賞した大型OLED(有機発光ダイオード)テレビが注目を浴びた。

 ただ心配が無いわけではない。注目されている大型有機発光ダイオードの生産収率が、生産工程の微細マスク(fine metal mask)に問題が発生しているため、10%以下との話もある(12年5月現在)。小型有機発光ダイオードはスマートフォンに利用されているが、大型画面の有機発光ダイオードの場合、均一なパネルを生産するのが難しく、生産収率を向上できなければ、サムスンが目標とする販売価格を1台2000万ウォン以下に抑えられず、年内の販売は困難に直面する。

 サムスン電子はメキシコ・ティファナのテレビ工場と米テキサス州のオースチン半導体工場で作った製品を北米市場に供給している。メキシコと米国は北米自由貿易協定(NAFTA)締結国であるから、サムスン電子は、メキシコで生産しているテレビと家電製品の相当部分に対して、この3月の米韓FTA発効に伴う関税撤廃の恩恵をほとんど受けない。一部の生活家電製品が韓国内で生産され、米国に輸出されていることから、米韓FTA発効により多少の恩恵が期待される程度である。

 テレビとモニター、その他家電製品などを韓国から米国に輸出する時、最高5%の関税がかかる。米韓FTA発効により、これらの関税は段階的に撤廃される。LCDテレビは3年間の猶予期間を経て無関税輸出が可能となる。関税が0%である製品でも通関時に物品取扱い手数料(MPF/Merchandise Processing Fee)が賦課されていたが、これは米韓FTA発効によりなくなった。

 IT産業に限定するならば、韓国企業からみた米韓FTAの経済効果は、一部輸出製品の関税撤廃、物品取扱い手数料がなくなることで、韓国製品の国際競争力を強化できるだけでなく、両国の投資誘致や技術協力の拡大という間接効果も十分期待される。それら以上に米韓FTAの大きな効果は、韓国と米国が対等な関係を国際社会に示すことで、韓国製品に全体に対するグローバルイメージの向上に、計り知れないほどプラスの作用が働いているといえよう。