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2012/11/30

<Korea Watch>サムスン研究 第26回 加速する対中戦略③                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第26回 加速する対中戦略③

◆現地化戦略で多様なラインナップ表現◆

 中国政府の緊縮政策への転換により、IT製品など消費全般に抑制の兆候が見られ始めているものの、世界を見渡したとき相対的な経済成長の速さ、市場規模の大きさ、生活水準の向上などを踏まえると、消費市場としての中国の魅力は変わらない。

 中国の耐久消費財の普及状況を都市部でみると、100世帯当たり携帯電話、カラーテレビ、エアコンではすでに100台を越え、洗濯機、冷蔵庫もほぼ100台に達し、飽和状態に近づいている。日本の普及状況との比較で見ると、乗用車、エアコン、カラーテレビなどに今後の市場性が期待される(図表)。農村部での耐久消費財の普及はこれからの段階であることから、中国全体の潜在的な消費市場規模は計り知れない。

 中国市場でサムスン電子が展開している販促戦略は、先端製品と低価格製品に分けたツートラックマーケティングである。サムスン電子は、世界最高の製品を提供する「プレミアム戦略」と中国の消費者ニーズを反映して新しい需要を創り出す「現地オーダーメード戦略」のふたつの戦略を軸としている。中国の富裕層が携帯電話、高級家電などの購入に外国ブランドを選好することも、「プレミアム製品」を投入する背景にある。

 プレミアム戦略を代表しているのがスマートフォンと3Dテレビである。2011年7月、米国で販売開始してからわずか3カ月後に、ギャラクシーS2を中国で販売したのをはじめ、今年6月、ギャラクシーS3をチャイナモバイル、チャイナユニコム、チャイナテレコム3社から同時に発売した。異なる3世代(3G)移動通信技術を適用している移動通信会社3社同時に製品を供給したことは、サムスン電子の多様な製品開発力をまざまざと見せ付けた。

 ちなみに今年第2四半期の中国におけるスマートフォンのシェアは、サムスン電子22・2%、レノボ11・9%、華為11・2%、アップル7・1%となっており、ライバルといわれているアップルを大きく引き離している。サムスン電子が多様なスマートフォンを中国に投入してシェアを伸ばしているのとは対照的に、アップルは単一モデルで勝負している。

 3DテレビやLEDテレビの場合も、中国人の嗜好に合わせた製品が投入されている。大きい画面を好む中国消費者に合わせて、ナローベゼル(Narrow Bezel=狭額縁)を適用した製品を中心に投入している。この製品は42・47インチ製品と同じ外観サイズであるが、ベゼルの幅を既存の15㍉から9㍉以下に細くすることで、1インチ画面を大きくした43・48インチの製品である。

 「現地オーダーメード戦略」の具体例としては、サムスン電子が今年発売した100㌦台のスマートフォン「ギャラクシーポケット」で、中国など新興国の市場を開拓するための低価格モデルである。特に中国では低価格のスマートフォンに人気がある。

 サムスン電子は、電子製品を中国人の好みの色に合わせるノウハウも蓄積している。中国人は赤い色が好きなことから、コンピュータ モニターの裏面を赤でデザインし、キーボードにも赤色LEDを取り入れるなど、色彩にも配慮したデザインで差別化を図っている。
また現地大手流通メーカーとの協力体制が、サムスン電子の販売戦略を支えている。サムスン電子と中国の大手電子製品流通業の国美電器は、10年9月、今後2年間、中国内で5兆ウォン以上の販売額を目標とする戦略的協力関係を結んだ。その4カ月前、国美電器のライバルである蘇寧電器とも、1年間約1兆7000億ウォンの販売達成に向けた提携を結んでいた。

 サムスン電子の強みである製品の多様なラインナップは、中国市場の攻略に有利に働いている。多品種のサムスン製品を中国市場に送り出せる主因は、サムスン電子が中国内のマーケティング戦略から工場運営、生産・流通・投資計画など、ほとんどすべての権限を現地に委譲している点にあり、こうした経営体制が、ニーズの発掘・企画から製品化に至るまでのスピード経営を可能としている。