ここから本文です

2012/06/29

<Korea Watch>サムスン研究 第5回 2020年中期戦略                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第5回 2020年中期戦略

◆重要な位置を占めるLED事業◆

 李健熙会長復帰直後の2010年5月、サムスングループは「5大有望事業」を発表した。5大有望事業は、太陽電池、自動車電池、LED(発光ダイオード)、バイオ製薬、医療機器の5つである。「5大有望事業」に対して20年まで23兆3000億ウォンの投資、売上高50兆ウォン、4万5000人の雇用創出という目標を掲げた(図表①)。サムスングループの中期戦略は、「エネルギー」と「ライフケア」分野に集中している。

 エネルギー部門の中核となっているのが自動車用電池である。この事業を推進しているサムスンSDIは08年7月、世界最大の自動車部品メーカー独ボッシュと各50%出資してSBリモーティブを設立、その後、独BMW、米クライスラー、印マヒンドラなど世界有数の自動車メーカーにバッテリーを供給している。また、米ビッグ3の自動車メーカーと電気自動車用バッテリーの共同開発にも取り組んでいる。10年、蔚山に生産ラインを整備し、15年までに電気自動車用のバッテリー生産を年間18万台分(4GWH)の規模まで増やす計画である。20年の自動車用2次電池の売上高は10兆2000億ウォンを目標としている。

 この他サムスンSDIは、すでに中小型2次電池分野で日本企業を抜き去り世界第1位の座を占め、技術開発力とプロセス技術の改善をベースにコスト競争力をさらに高めている。日本市場向けには11年10月に京都のニチコンと家庭用エネルギー貯蔵システム(ESS)の独占売買契約を締結し、今年から販売を手掛けている。

 だがエネルギー部門の中でも太陽電池事業(11年5月サムスン電子よりサムスンSDIに移管)は、戦略の練り直しから売却の話が飛び出すほど苦戦している。太陽電池市場は爆発的な成長が期待されたことから、ここ数年多くのグローバル企業が市場参入して供給過剰となり、一方欧州など補助金の優遇策の打ち切りによる需要減少の追い討ちを受けたため、深刻な価格下落を招いている(図表②)。市場規模の大きい結晶系では中国企業が激しく追い上げてきているため、サムスンSDIは、薄膜系へのR&D投資に切り替えている。この事業が浮上できるかどうか、かなり難しい局面を迎えている。

 LED事業についてみると、サムスングループは、5大有望事業中でLEDに最も多い8兆6000億ウォンの投資計画を立てており、中期戦略において重要な位置を占めている。

 09年、サムスン電気からサムスンLEDとして独立した後、LED事業の売上高は初年度6300億ウォン、10年1兆3000億ウォン、11年1兆2700億ウォンと推移してきた。ところが11年半ば以降、LEDの主な需要先であるテレビ市場が急激に縮小し、また照明市場も期待されたほど拡大せず、LED事業の収益性は急速に悪化している。

 12年4月、サムスン電子がサムスンLEDを吸収合併することで重複投資を回避し、中期的な大規模投資と研究開発によるシナジー効果が期待されている。

 サムスン電子は、LED事業から次世代技術であるOLED(有機EL)に期待を寄せている。今年1月、米国ラスベガスで開催されたCESにおいて、OLED技術を使った55型のスマートテレビを出展した。現在、大型OLEDは歩留まりが悪く試作段階にあり、今後どこまで歩留まりを高めてコストを引き下げられるかに命運が掛かっている。LG電子とどちらがいち早く世界初の大型有機ELテレビの商品化に漕ぎ着けられるか、熾烈な先陣争いが展開されている。

 サムスングループにおけるエネルギー部門の中期戦略を評点するならば、1勝(自動車用電池)1敗(太陽電池)1分(LED)といったところだろうか。