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2012/07/06

<Korea Watch>サムスン研究 第6回 ライフケア部門                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第6回 ライフケア部門

◆生き残りかける中期戦略の重要な柱に◆

 エネルギー部門同様、中期戦略の重要な柱となっているライフケア部門(バイオ製薬事業と医療機器)を見てみよう。

 サムスングループのバイオ製薬事業は、2011年4月にサムスン電子および系列会社と米国製薬メーカー、クインタイルズ・トランスナショナル・コーポレーション(米国ノースカロライナ州)と共同で設立したサムスンバイオロジックス(図表①)が主体となっている。サムスンバイオロジックスは、バイオ医薬品の生産事業(CMO=製薬会社の依頼を受けて医薬品生産を専門的に代行する事業)を推進しており、第1段階として13年上半期から海外製薬会社から受注生産に入る計画である。

 11年5月に仁川、松島に生産施設と研究センターの建設に着工し、20年までに2兆1000億ウォン(約1500億円)投資する。同年12月、サムスンバイオロジックスは、米国の大手製薬会社であるバイオジェン・アイデック(米国マサチューセッツ州)と合併法人サムスンバイオエピス(図表②)設立の契約を締結した。サムスンバイオエピスは、12年2月末からすでにスタートしており、バイオ製薬事業に必要な製品開発、臨床、許認可、製造、販売力を備えた合併法人である。両社が独自に開発してきた細胞株を共有し、臨床試験を進める計画である。

 サムスンバイオエピスは、長期的には新薬開発を視野に入れている。まずバイオシミラー(複製薬)を足掛かりとした戦略は、80年代の第1世代バイオ医薬品の特許期限切れが13年から始まり、複製薬市場が拡大するとの見通しに基づいている。このタイミングに合わせて12年末には工場と研究施設を完成させる予定である。次に16年から大量生産に移行し、グローバル市場に乗り出す戦略である。

 ライフケア部門の両輪をなすもう一つの事業である医療機器は、サムスン電子が10年に血液検査機を販売したのを皮切りに本格化している。サムスン電子はこの血液検査機の開発にサムスン総合技術院などと共に4年間、合計300億ウォン(約22億円)の研究開発費を投じて製品化した。

 現在、医療機器事業はサムスン電子とサムスン医療院が中心になり、買収合併を通じて体制を整え競争力を高めている。具体的には、10年に韓国のX線機器製造会社レイと超音波機器会社メディソン(後のサムスンメディソン)を取得し、11年11月には心臓疾患関連検査機器会社ネクソスを取得した。

 今後サムスングループは、サムスンバイオロジックスにおいてバイオ医薬品の受託生産、サムスンバイオエピスの複製薬・新薬事業、サムスン電子のIT技術を駆使した医療機器事業(デジタルX線装置)などの融合一体化を目指すことで、ライフケア部門を中期戦略のコアに育て上げる計画である。ライフケア部門全体の20年売上げ目標は10兆ウォン(約7300億円)である。

 サムスングループのバイオ製薬・医療機器事業の中期戦略は、まだ初期段階で全体像が見えない。医療機器事業は、新たな機器開発とそれらをネットワーク化するIT技術を駆使することで、病院-地域-家庭-個人を結び付ける遠隔医療などに力を発揮するであろう。問題は複製薬などの事業において、設備能力の拡大が計画通りに進められるかどうかである。設備能力の拡充と研究開発・人材育成が軌道に乗るならば、サムスングループが得意とする規模の経済によるコスト競争力を発揮して、グローバル市場でシェア拡大に邁進することは十分可能であろう。次に浮上する問題は、16年以降、新薬開発というハイリスク・ハイリターン事業である。この領域はまさに千三つの過酷な世界であり、基礎研究から応用研究を経て何とか新製品開発に成功したとしても、ダーウィンの海(市場で製品としての生き残るプロセス)を渡り切れるか覚悟しなければならない。