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2012/07/13

<Korea Watch>サムスン研究 第7回 オープンイノベーション                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

◆協力会社の育成が生き残りの原動力に◆

 日本では親会社の業績不振が、協力会社の存続を危うくしている。わが国大企業の競争力は、協力会社が作り出す部品・素材に支えられてきた、という構図を考えたとき、サムスンは現在、協力会社との連携(オープンイノベーション)をどのように構築し、コスト競争力の強化や品質向上を成し遂げているのだろうか。

 以前から韓国産業界では、大企業と中小企業の従属関係が指摘され、納品単価や購買慣行の押し付け、大企業が資金力とブランドパワーで中小企業の優秀な技術を奪うなど、企業倫理に抵触する問題もあった。韓国政府も昨今の大企業による談合問題が取り沙汰される中、大企業が雇用拡大に貢献するだけでなく、協力会社の育成を社会的責任として果たすよう強く求めてきた。

 2008年、サムスン電子は、相生(以下、共生と表示)協力室を新設して、協力会社を世界トッププレーヤーに育てる戦略を打ち立て、09年末には共生協力室を拡大改編して共生協力センターとし、さらに10年12月、経営支援室の下部組織にあった共生協力センターを 最高経営責任者(CEO)直属組織に格上げし、140人規模で新たにスタートした。なおサムスングループ主要11社では、1次協力会社3270社、2次協力会社1269社〔年間取引額5億ウォン(3650万円)以上〕、合わせて4539社に達する。

 11年4月、サムスン電子・崔志成副会長は社内放送を通じて、急変する環境では、外部資源とアイディアを効果的に活用するオープンイノベーションを積極的に推進しなければならないと訴えた。オープンイノベーションは、サムスン電子の事業部間はもちろん、協力会社や外国企業の知識と技術を積極的に活用する戦略だ。

 サムスン電子が掲げる協力会社との共生協力プログラムは、人材教育にとどまらず、資金支援、販路拡大まで共に成長するための支援活動を広げてきた。人材教育では、協力会社役職員の能力強化のために、職務教育、技術教育、経営管理教育、革新技法教育など45のカリキュラムで構成されている。

 資金面の支援としては、協力企業に共生保証プログラムが提供されている。共生保証プログラムとは、サムスン電子が推薦する協力会社に対して保証書を発行すれば、サムスン電子と銀行が共同出資した保証基金の限度内で、銀行審査や担保なしで貸し出しをする制度である。具体的には、協力会社の設備投資、技術開発、運営資金など企業経営全般にわたって必要な資金を貸し出す仕組みで、これにより2・3次協力会社の設備投資および研究開発(R&D)が活発となり、足元からの競争力向上につなげることを目指している。

 さらに踏み込んで、協力会社の技術競争力向上のための核心部品の共同研究開発、サムスン電子が所有する技術特許を協力会社に無料での使用許可、協力会社の特許出願の支援まで多様化している。協力会社の枠を取り払った制度もある。それは09年8月にスタートした「革新技術企業協議会」である。同協議会は、優れた技術力と能力を持つ中小企業を発掘して、サムスン電子のビジネスパートナーとして育成するための共生協力制度である。中小企業に核心技術とアイディアがあれば、同協議会の「新技術開発公募制」に申請することができ、選ばれればサムスン電子と共同で研究開発や新しい事業化に乗り出すことができる。

 これはサムスン電子にとって有望企業の発掘→技術開発費の支援→共同開発・育成→取引開始・成果の共有→有望企業の成長という、両社にとって好循環を作り上げるための共同成長モデルである。サムスン電子は、選ばれた会社に技術開発費の70%以内、最大10億ウォン(7300万円強)まで支援する。

 日本の協力会社に対しても、04年以降に始まった技術交流から発展して、11年9月、サムスン電子は海外販路を支援するために、電子部品専門流通業社のバイテックとの間で、海外販路支援業務提携協約を結んでいる。わが国の協力会社のグローバル化と輸出拡大に向けて幅広い支援を展開している。

 このようにサムスン電子の協力会社との連携の狙いは、日韓の部品・素材を中心とした貿易不均衡を是正するという国家レベルの視野ではなく、国内外を問わず協力会社を育成することが、グローバル競争で生き残る原動力であるとの認識にある。