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2013/05/17

<Korea Watch>経済・経営コラム 第56回 2013年の経済展望・韓国は曇りで日本は薄明かり                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆政府機能をトップギアに入れられない韓国◆

 3月の下旬ソウルに一週間滞在して、韓国経済と日本経済を比較展望した。そして、路地裏商店街の団体が始めた日本商品の不買運動の行方を追った。朴槿惠政権号はスタート早々から、次々と大波に襲われて舵取りが大変そうだ。大統領が指名した国務総理、国防部長官、未来創造科学部長官など政権の要である6人の閣僚候補者の不正資金操作、脱税、性スキャンダルなどが暴かれて、次々と就任辞退に追い込まれた。彼女の人を見る目の甘さが批判される一方で、国家の指導者に指名されるほどの人たちの多くが、私生活レベルでは相も変わらず不正や腐敗に深く染まっていることを、国民は最確認した。

 大統領は、その公約を実行するために、財閥大企業と中小企業の協力成長を促し所得格差の縮小を一刻も早く実現したい。しかし、実務レベルの現実は、大企業による中小企業いじめ(納入価格の無茶な切り下げ要求、支払いの勝手な遅延や額の切り下げなど)を罰することに熱心で、肝心の中小企業の成長戦略は先送りということか。

 経済は低成長期に入り、12年の実質成長率は+2%、前年の+3・7%から大きく後退した。所得格差が広がって消費は低迷し、輸出が低成長で国内の設備投資が減速した。13年のウォン高の進行が、更に成長阻害要因となると恐れられている。13年の最新の成長率予測は2・3%で、今後さらに下がる可能性が大きい。経済の民主化や所得格差の是正は、低成長経済の下で、国民の期待の大きさにもかかわらず、まだまだ道遠し、の感。経済成長のこれ以上の低下を防ぐには、やはり、財閥大企業の頑張りに依存せざるを得ない。

 12年も、韓国経済を牽引したのは主要30財閥グループだった。牽引と同時に、経済力も財閥グループに集中した。とくに、サムスン、現代自動車、SK、LGの4大グループへの集中度が高い。公正取引委員会の08年~12年の5年間の分析によると、4大グループによる経済支配力は、30グループの資産総額の55・3%、総売上高の53・2%だった。純利益総額では79・8%という圧倒的な高さだ。しかも過去5年間で、4大グループの経済支配力が一段と強くなった。たとえば、トップ二大グループの中核会社であるサムスン電子と現代・起亜自動車は、それぞれ過去最高の売上と営業利益を計上し、韓国経済を大きく支えている。

 これまでも当コラムで何度も指摘したように、規制などで財閥グループの力を削ぐのではなく、その力を借りて長期的に、中小企業の経営革新を支援し、国内外での、技術、商品開発、マーケティングなどの面での、競争力を高めなければいけない。そして、オンリー・ワン企業を生み育てるのだ。そのための制度や組織を整備するのが先決である。中小企業の競争力が高まれば、その従業員の収入が増える。

 日本経済は、「アベノミクス」の三本の矢(金融・財政・成長)の中身が少しずつ具体化され、気分として明るさが見え始めた感がある。金融緩和を梃に、長期デフレを脱却して緩やかなインフレに至る道筋が作られようとしているし、思い切った復興投資や老朽化したインフラの再整備への投資が進み、被災地や全国の地方経済が活性化しそうである。実体経済がポジティブに動くのはまだ数カ月先だが、その足音はかなり聞こえる。円安が進み、輸出企業を中心に収益性の向上が現実になりつつあり、また大企業を中心に従業員の給与の引き上げが続いている。企業投資や消費が拡大すると期待されている。TPP交渉への参加、日韓中や日EUのFTA交渉も本格化しそうだ。

 ソウルから展望すると、円安になるほど韓国の輸出がダメージを受ける。輸出50大品目の内52%が、自動車、デジタル家電、鉄鋼、化学品などが、日本と真っ向から競合しているからだ。円安は、韓国に対する日本の「近隣窮乏化政策」で、憤懣やるかたない。

 韓国の独立運動記念日、3月1日にスタートした、日本商品不買運動は空振りだった。全国600万人で組織する、ある商店街連盟が、「竹島(独島)に対する日本の侵略的行為が止むまで続ける」として始めた。飲食店、酒類店、近所の小売店がメンバーで、「アサヒスーパードライ」、「ニコン」、「ソニー」、「ユニクロ」などが不買の対象だ。しかし、「私たちの暮らしに不可欠な商品になっている」「私が欲しい商品に国籍は関係ない」「客が求める商品を売ることが国の経済発展に貢献する」など、韓国の消費者から、そして連盟の仲間たちからも、支持されなかった。私はソウル滞在中、アサヒスーパードライを飲んだし、南大門市場でニコンやソニーが売られていた。日本では、韓国商品不買運動など起きようがないし、中国商品不買の動きも一切ない。日本だけでなく、消費者が成熟した先進国では、政治的な対立と相手国商品の不買はリンクしないのが普通だ。韓国人の消費者心理の「先進国度」は高い。