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2013/02/08

<Korea Watch>サムスン研究 第34回 サムスン飛躍の原動力                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第34回 サムスン飛躍の原動力

◆危機意識の醸成と人材育成が影響◆

 サムスン飛躍の原動力について、一部マスコミでは今なお外部要因であるウォン安、法人税率の低さ、EUなどとのFTA(自由貿易協定)締結により、日本企業より優位な条件下にある、と報じている。日本企業からすれば、全く違う土俵の上で韓国企業との競争を強いられている、という不満の声である。

 9月末に放映されたテレビ番組でもある経済評論家の見解は、1㌦=90円にまで円安となれば、日本を代表するエレクトロニクスメーカーS社は完全復活し、そのとき同社の利益は1兆円以上でサムスン電子を上回るし、また円に対してウォンが不当に安く、ウォン安が是正されれば、日本の家電業界の輸出競争力はたちまち回復する、というものであった。

 わが国家電メーカーが崩壊しつつある要因を為替レートなどの外部に求めるならば、家電業界の窮地は、政府と日銀の政策が作り出していることになり、両者の責任は重大という結論になる。環境要因を業績不振の主因とする限り、日本企業として対応できることは限定される。こうした論調は、経営者の立場を擁護するには極めて耳障りのいい話である。だが韓国企業はサムスンに限らず、日本企業から素材・部品や製造装置などを大量に購入しており、円高によるリスクを軽減するために、供給先の多角化を図りながらも代替先が限られているため、日本への継続的な依存が、円高により韓国家電メーカーの国際競争力を削いでいるのが現実である。

 このように、サムスン電子の成長力を外部要因に求める限り、日本企業の構造改革、人材育成、危機意識の醸成などが後手にまわり、韓国企業の追撃は遠のくように思われる。図表に示したように、サムスン電子躍進の要因は、内部に求められなくてはならない。それらを列挙すると、「モノづくり」「ヒトづくり」「組織づくり」「ブランドづくり」「危機意識づくり」、これら5つの内部要因が有機的に機能していることである。

 「モノづくり」は、日本企業が基礎研究から応用研究、そして商品化へと時間を掛けて進めるのに対して、サムスン電子は、重要と見込んだ基礎研究を外部との共同研究に委ね、商品化までの道筋がはっきり見えない基礎研究へのリスクを軽減している。様々なパターンの連携に巧さがあり、社内の事業部間での共同開発(例:ギャラクシーカメラ)、グループ内の連携(例=電気自動車)、他社との技術・資本提携(例=グーグル)など、オープン・イノベーションを推進することで企画から商品化までを加速している。

 「ヒトづくり」は、新入社員から役員に至るまで、徹底した教育システムが採られている。それだけではなく、高校生や大学生にも、サムスンが必要とする人材とするために各校にカリキュラムを設け、オーダーメード型の人材育成を行っている。選抜された学生にはインターンシップ制度があり、就職する前から実務の訓練を受ける機会が多く、優秀な学生には奨学金とともにサムスン入社の資格が与えられる。

 「組織づくり」は、グループ全体を管轄する社長団協議会、その下部組織の未来戦略室があり、投資、人事、ブランド管理などに権限を持つ。2012年4月には赤字が続いたLCD事業部を分離し、同時にサムスンLECを合併吸収するなど、グループ全体を管理していることで組織変更はきわめて柔軟である。

 「ブランドづくり」も、グループ各社は自社製品の広報は各社別々であるが、グループ全体のイメージ戦略は、オリンピックの公式スポンサーに代表されるスポーツマーケティングを軸に展開しており、社長団協議会と未来戦略室が取り仕切っている。

 「危機意識づくり」は、李健熙会長の言動が大きく影響している。1993年6月、ドイツ・フランクフルトのホテルに役員たちを集め、李健熙会長が「フランクフルト宣言」と呼ばれる新経営について、500時間超える熱弁を奮い、「妻と子供以外みな変えろ」「一流にならなければ滅びる」「不良は癌だ」「サムスンがこのまま行けば3流、4流会社になるかもしれない」等、インパクトのある名言が残されている。2011年には李会長は「今サムスンを代表する多くの製品が10年内に消えるだろう」と発言するなど、社員の末端にまで危機意識を浸透させている。危機意識の醸成が、意思決定の早さなどスピード経営に大きく影響している。