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2013/02/22

<Korea Watch>サムスン研究 第36回 日本企業への示唆②                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

◆「モノづくり」の真骨頂、オープン・イノベーション◆

質問1 サムスン電子が強みとしているオープン・イノベーションについて、具体的な事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

 ①まずサムスン電子の事業部間の連携としては、2012年8月に発表した「ギャラクシーカメラ」が典型的である。「ギャラクシーカメラ」は、デジタルイメージング事業部とネットワーク事業部の2つの事業部の企画・技術が結集した製品である。通話機能以外は、スマートフォンと同じ機能を持っているのが特徴である。

 ②サムスングループ間では、さまざまな連携が組まれている。スマートフォンに使われている小型有機ELは、サムスン電子がサムスンディスプレイから調達し、リチウムイオン電池はサムスンSDIから主に調達されている。グループ間連携としては、5大有望事業(太陽電池、自動車用電池、LED、バイオ製薬、医療機器)のほか、最近では水処理ビジネスなどにグループ間の連携がみられる。

 ③サムスン電子の他社との連携は、スピード経営の根幹を成している。IBMとの特許クロスライセンス契約(11年2月)、12年10月にはボーイングとサムスン電子は、機内通信の技術研究開発(R&D)を共同で推進する内容の了解覚書(MOU)を締結、同じく10月サムスン電子の先端モバイル技術とグーグルの最新プラットホーム・サービスを搭載した新しいタブレットPC「ネクサス10」を発表したことなどが挙げられる。

質問2 サムスングループ間の連オープンイノベーションという場合、たとえばリチウムイオン電池を例に挙げると、サムスンSDIからサムスン電子は、他社よりも安い価格で供給されているのではないか?他社よりも価格面・納期などで有利な取引条件となっているのではないか?  

 ①サムスン電子は日本企業からもリチウムイオン電池を購入しており、サムスンSDIを特別扱いしていないのが実態である。サムスンSDIがサムスン電子に納入しているリチウム電池の割合は60%強であり、残りは日本企業が納入している。ただし、サムスンSDIのリチウムイオン電池は、最新鋭設備の投入、合理的なSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)などにより、価格競争力を強めており、12年以降、これまで世界シェアトップのパナソニック(11年5月、三洋電機を子会社化)を抜き、世界トップに躍り出ている。

 ②サムスン電子とサムスンSDIは、携帯電話の企画・開発段階から一体となってリチウムイオン電池を開発している。両社とも厳しい成果主義が適用されているので、グループ間の取引価格を安く設定して、社外では販売価格を高く設定する、というようなやり方、つまりグループ内企業だから甘やかすやり方は取られていない。グループ間でも厳しい競争での生き残りを掛けていることが、品質と価格で国際競争力を高めている。

質問3 日本企業との利益の差を出しているポイントはどこにあるでしょうか?

 ①サムスン電子社内では、シェア2位との企業と差を広げるための「超格差」戦略が錦の御旗になっている。この意味でサムスン電子のビジネスモデルはシンプルで、高いシェア・世界のトップを目指すことが、高収益を生むという戦略である。スマートフォン以外でも、デジタルカメラ・ノートブックPC・コピー機・プリンターなど、世界シェア1位を目指している製品がどのような戦略で引き上げられるか注目される。

 ②スピード経営では日本企業とは雲泥の差があり、この点も利益格差を生んでいる。役員クラスへの権限委譲と併せて、毎年の事業部単位と個人の成果による業績評価が明確となっている。このことが意思決定の早さを生み、成果に見合った褒賞が与えられることで機能している。

 ③基礎研究を自社でやらないという意味は、基礎研究に時間を掛けないということである。製品化が見えないような基礎研究には、時間とコストが掛かりすぎ、そこに価値を見出していない。世界的に重要と思われる基礎研究には、その大学研究室との共同研究などをすることで対応している。

質問4 低価格路線の中国と高付加価値路線の日本にはさまれた韓国の今後の立ち位置をどう考えるのか?現在、サムスンが行っている組み合わせ技術では、今後、中国の追い上げにより、サムスンは強みを失うのではないか?

 ①オープン・イノベーションと並行して行われているのが、「リバース・エンジニアリング」である。リバース・エンジニアリングというのは、競合他社の製品を構成しているハード・ソフトを分解してそれらの構成要素を解明する調査手法である。

 ②「リバース・エンジニアリング」を熱心に行っているのは中国サムスンである。中国ではサムスンの類似品が多数製造されており、しかも価格が桁外れに安い。これに対抗するために「リバース・エンジニアリング」手法を使って、12年8月、中国で100㌦台のスマートフォンの開発をしている。

 ③中国サムスンでリバース・エンジニアリングによる低価格製品を開発すると、中国企業は間髪を入れず100㌦以下のスマートフォンを売り出してくる。ある意味、イタチゴッコの状況にあるが、リバース・エンジニアリングによる製品開発のノウハウは中国国内だけに適応されるものではなく、新興国に敷衍していく製品戦略にも活かされている。