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2013/03/08

<Korea Watch>サムスン研究 第38回 日本企業への示唆④                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

◆「組織作り」―「選択」と「集中」そして「多角化」―◆

質問1 サムスンのブランド価値はどのような評価ですか?

 1.サムスンのグローバル・ブランド価値は、コンサルティング会社インターブランドによる「グローバル100大ブランド」調査によると329億㌦(前年比40・6%増)、世界第55位となっている。2011年から8ランク上昇した。

 ②上位5社をみると、アップルは1829億㌦のブランド価値で、19%上昇して世界第1位を維持している。第2位はIBM(約1160億㌦)、第3位グーグル、第4位マクドナルド、第5位マイクロソフト(MS)である。

 ③アジア地域では、中国最大の移動通信会社チャイナモバイルが470億㌦でアジア第1位、工商銀行が第2位、建設銀行が第3位、日本のトヨタは第5位、サムスンは第10位である。

質問2 ブランド作りには、何が一番重要なのでしょうか?

 ①デジタル時代といわれ始めた2000年以降、モノづくりに付加価値をつける要素としてブランドが重視され、そのブランドはデザインやソフト開発に大きく影響を受ける。微妙なすり合わせを必要とする先端技術製品は別として、デジタル化は世界のどこでも、中級品レベルの製品を生産できる仕組みを可能としたわけで、差別化にブランド価値を高めることが不可欠である。

 ②このためブランドづくりには、重要なファクターとしてデザインの一流化が他社との差別化に無くてはならない。1993年、サムスン電子は、サムスン・デザイン・メンバーシップというデザイナー養成学校の設立、その後サムスンデザイン学校(SADI)の設立、韓国のデザイン界全体の発展に寄与するデザイナーの育成に力を注いでいる。

 ③米国・サンフランシスコ、ロサンゼルス、英国・ロンドン、日本・東京、中国・上海、イタリア・ミラノ、インド・デリーなど6カ国に海外デザイン研究所を設置し、ソウル含めた7カ所全体で約1000人のデザイナーが活躍している。

 ④サムスン電子の従業員22万人のうちR&D担当者は約5万人、その半数の2万5000人がソフト開発担当であるが、それでも不足状態にある。現在のソフト開発者不足をインド人の雇用で大部分を満たしている。

 ⑤11年12月、ソフト開発者を育成するために、ソフトウェアセンターを設立し、将来を見据える研究開発組織として立ち上げている。また11年12月の役員人事でも、サムスン電子全体の役員昇格者226人のうち10%を越える24人がソフト開発者である。

質問3 養成したデザイナーがすぐに退職する問題は無いのか?

 ①サムスンではデザイナーに限らず、経営理念のひとつが「人材第一」を掲げており、社会に貢献する人材育成を社是としている。つまり、サムスンにとどまることのみを目的としたデザイナーの育成ではない。

 ②サムスンデザイン学校を卒業しても、サムスンに就職しなければならない、という制約は無く、就職先の選択は個人の自由である。卒業後、サムスンに就職するデザイナーは、約半分に過ぎない。

質問4 デザイン戦略にまで李健熙会長の影響は及ぶのでしょうか?

 ①05年、李会長がミラノでデザイン戦略会議を開催したとき、「まだサムスンのデザインは1・5流水準」と指摘し、以後サムスンの製品デザインに対して果敢な投資をする契機となった。デザインについても李会長の影響力は大きい。

 ②11年7月の「2011先進製品比較展示会」においても李健熙会長は、「10年後のためにソフト技術(ソフトウェア、デザイン、サービスなど)、S 級人材(役員クラス)、特許など3大核心課題を今直ちに解決しなくてはいけない”と発言している。

 ③サムスン電子は、世界最高権威のドイツiFデザインアワード2012」で金賞2個を含む44製品が受賞した。また11年11月には、日本のグッデザインアワードでスマートテレビが金賞を受賞した。競争力のあるデザインが、サムスン製品を一層プレミアム製品として評価される重要なポイントになっている。

質問5 デザイン、ソフトの他にブランドづくりに何が重要ですか?

 ①デザインと同様大きな影響力を持つのが、グローバル・スポーツ・マーケティング戦略である。16年までオリンピックの公式スポンサー、2011アジアカップの公式スポンサー、米国最大の祭りであるスーパーボールへの広告、さらに英国プロサッカープレミアリーグのチェルシーを後援していることなどが代表的である。

 ②05年6月からチェルシー(スポンサー費用だけで年間200億¥ウオン¥)を後援して以降、ヨーロッパ市場全体売上額が、04年の135億㌦から08年247億㌦と83%成長するとともに、サムスンのブランド認知度も33%(04年)から48%(07年)に急上昇したことが、サムスンのグローバル戦略に多大な貢献をしている。

 ③またアフリカでの学校建設、井戸掘りなど途上国で積極的な社会貢献活動を展開していることも、サムスン・ブランドのイメージ向上に欠くことのできない要因となっている。