ここから本文です

2013/04/19

<Korea Watch>経済・経営コラム 第53回 日本・韓国・中国の通商三国志②                                                      西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第53回 日本・韓国・中国の通商三国志②-1
  • 経済・経営コラム 第53回 日本・韓国・中国の通商三国志②-2

◆自前調達率が付加価値の創造を左右◆

 日韓中3カ国の付加価値の相互補完と、付加価値の最終消費国を明らかにするために、前回の図表2を再録する。

 日本の韓国とのグロス(総額)の貿易黒字330億㌦は、ネット(純額)では10億㌦に縮小する。つまり、日本から韓国への輸出は、韓国内の消費にまわる部分が大変少なく、ほとんど全てが韓国の輸出のコストとして組み込まれる。韓国ほどに極端ではないが、中国とも同様に、170億㌦のグロスの黒字が、30億㌦に激減する。日本発の付加価値の最大の消費国は米国だ。日本から輸出される最終財(自動車など)の付加価値を凌駕して、韓国と中国が米国やEUへ輸出する最終財の中に、日本発の付加価値(素材・中間財・資本財)が使われ・組み込まれているからだ。

 韓国側から見ると、グロスの対日赤字△330億㌦が、ネットでは△10億㌦に急減する。韓国が輸入する産業財という日本発の付加価値は、韓国の中国や米国への輸出に不可欠なコストである。また、対中国のグロス黒字510億㌦の大部分は、中国発の最終財輸出の不可欠なコスト(韓国発と日本発の付加価値)である。最終消費地は米国・EUをはじめ全世界に広がっている。中国は一国として巨大な工場で、日韓発の産業財を使い・最終財に組み込んで、文字通り、全世界から熊手で黒字をかき集めている。対日・対韓のグロス赤字△2160億㌦は、世界から7480億㌦黒字を稼ぐための安いコストだと言っていい。

 3カ国にとって、輸出に占める「自国で創造する付加価値の比率」が高いほど、ネットの貿易黒字が増え、3カ国間での相互の依存度合いが下がる。現下で、韓国と中国の日本への産業財への依存度が大変高いのは、両国のこの分野での技術が不十分で、対日依存をしないと米国やEUを始め、世界中で最終財の販売競争力が得られないからだ、と言える。

 日韓中の輸出品目に占める自国の付加価値率を、図表3の左側に、OECD「付加価値貿易」のデータから取り出した。日本の輸出の国内付加価値率は85%で3カ国の中で一番高い。原材料を輸入して産業財、そして最終財の製造・生産で高い技術生産性を発揮して付加価値率を高めているからである。研究開発から輸出・販売までの一気通貫が国内でできるわけだ。主要輸出品目ほぼ全てで80%超の付加価値率である。

 韓国の付加価値率60%の低さが際立つ。日本から輸入する産業財への依存度が高く、いくつかの財閥企業を別にすると、韓国企業による付加価値創造力がまだまだ弱いからだろう。得意分野である電機・デジタル家電や白物家電(55%)、輸送機・自動車や船舶(65%)での付加価値率の低さが際立つ。金属や化学などの、原材料を海外(豪州、中東など)に依存するのは日本も同じだが、輸出では日本の半分ほどの付加価値しか創造できていない。

 中国の相対的な高さ70%は一見意外だが、最終財でハイテク製品の輸出の5割近くを技術力が高い日本・韓国・欧米企業の中国現地法人が担っているので、うなずける。

 輸出先の国別の付加価値率を図表3の右側でみると、日本から韓国(40%)や中国(51%)へ素材や中間財の輸出が多く、付加価値率が低いことがわかる。一方では米国(73%)やEU(94%)へは最終財の輸出が多く、付加価値率が高い。

 韓国から中国(41%)への輸出は、ミドルテクの中間財の割合が一段と高く(図表2)、付加価値率は日本からの輸出よりも低い。韓国から日本への輸出の付加価値率が高く、ネットの対日赤字の縮小に貢献している。中国から日本(54%)と韓国(50%)への輸出は、両国企業の中国現地法人が母国での国内消費のために「生産原価に近い価格で消費財(加工食品、アパレル、携帯電話など)をお持ち帰り輸出」をしているから、付加価値率が低い、と推察される。韓国から米国(63%)とEU(99%)へ、中国から米国(60%)とEU(70%)へ、最終財が多い輸出の付加価値率は相対的に高い。