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2013/05/24

<Korea Watch>経済・経営コラム 第57回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北①                                                      西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

  • 経済・経営コラム 第57回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北①

◆敗北の理由を円高・ウォン安に求める日本3社◆

 デジタル家電分野での、韓国の「明」と日本の「暗」が益々鮮明になった。2012年、サムスン電子(以下、サムスン)は、過去最高の売上と利益を計上して世界のトップに立ち、日本のデジタル家電3社(パナソニック、シャープ、ソニー)は、大きく売上を落とし過去最悪の赤字を出して経営の危機に瀕している。08年には、日本の収益の二本柱が自動車(20%)と電機(15%)だったのが、現在では、デジタル家電3社が2年連続の大赤字で、重電3社(日立、東芝、三菱電機)の利益と合わせても電機の柱がやせ細り、復活途上の自動車だけの一本足の案山子状態になった。無残である。

 サムスンは12年過去最高の業績をあげた。売上高も利益額もである。文字通り一社勝ちで、お仲間のLG電子(以下、LG)までも赤字に追い込んだだけでなく、日本のデジタル家電3社をことごとく粉砕した。3社は果たして今後、単独で生き残れるのか(シャープ)、再起できるのか(パナソニック、ソニー)、瀬戸際の経営状態だ。たとえは悪いが、過去数年間の日本3社のそれぞれに、自らの力を過信し相手を侮り、巨大な風車に勝つための戦略も武器もなく立ち向かった「ドン・キホーテ」がダブって見える。従者「サンチョ・バンサ」は、悪しき企業体質。つまり、一人一人は優秀で理性的でありながら、組織人となるとサムスンの力をまともに評価することなく、過去の成功体験に安住して、それ行けどんどんの無謀な対抗戦略を意思決定した経営者やそれを経済合理的に止められなかった大多数の社員たち。痩せ馬「ロシナンテ」は、現地目線でのスピーディーな経営マーケティング力の欠如にあたる。巨大な風車は、勿論サムスンだ。重電3社の内、日立と三菱は早くから薄型テレビの自社生産から撤退、東芝はニッチ・セグメントに集中、それぞれ薄型テレビでの赤字を最小限で止めた。

 サムスンの業績は、売上高が200兆ウォン強(20兆円)で、営業利益額は29兆ウォン(2兆9000億円)だった。日本3社の合計売上高16兆3600億円、合計損失1兆6650億円(ソニーのデジタル家電での損失を11年と同等と推定)とでは、天と地ほどの開きがある。日本3社の売上の巨大さは中身のないウドの大木みたいだ。なぜそうなったのか、これまで数年間、本コラムで何度も指摘してきたので今回は繰り返さないが、一度でも真剣に聴いてもらいたかった。自らの経営責任を忘れて「円高ウォン安のために価格競争で負けた」等、外部要因を理由にしている限り日本のデジタル家電の再起は不可能だろう。ドン・キホーテの寓話が当てはまる所以である。

 サムスンは価格競争で収益性は下がったとはいえ、これまでの半導体や薄型テレビなどの世界一の強みを更に強めながら、スマートフォンを中心に通信事業でも世界一の座に駆け登り、当該事業で連結売上の54%、連結営業利益の66%をたたき出した。そして次代の成長分野である有機ELテレビ、ヘルスケア、環境エネルギーへの巨額投資を悠々と継続している。一方LGは、スマホに出遅れ、しかもサムスンに比べて高コスト体質で、新しい収益の柱を建てられないでいる。日本3社ほどではないが近年は業績低迷で、売上高は5兆円規模ながら、過去2年間赤字である。

 サムスンの強さと日本3社の弱さを、デジタル家電のSC(供給網)で対比しよう。SCでは大きく3段階ある。上の図表1。川上は電子材料で、12~13兆円の市場規模である。川中は電子デバイスで、薄型パネルや半導体である。川上の電子材料を使って生産する。市場サイズは両方合わせて36兆円。川上がデジタル家電の完成品で、パソコン、薄型テレビ、スマホなどだ。市場サイズは55兆円。日本がグローバル・リーダーシップを握っているのは今や川上だけだ。川中は韓国勢と台湾勢が圧倒的なコスト競争力=価格競争力で日本勢(パナソニックとシャープ)を窮地に追い込んだ。そして川下の完成品でも、世界市場で日本勢は商品戦略とマーケティング力で、敗北した(薄型テレビ、携帯など)、後退した(デジカメなど)、有力プレーヤーでさえない(スマホなど)のが現状だ。次回は、SCを逆に遡り、川下から川上に向けて日韓中企業の競争地位を見る。