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2015/02/27

<Korea Watch>今年の韓国経済の進むべき道 ㊦ ~禹 宗杬・埼玉大学経済学部教授に聞く

  • 禹 宗杬・埼玉大学経済学部教授

    ウー・ジョンウォン 1961年慶尚南道晋州生まれ。ソウル大学校社会科学大学経済学科卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程中途退学。99年埼玉大学経済学部専任講師に赴任。The Graduate School of Management(Anderson School) at UCLAの招聘研究員を経て、2005年から同大学経済学部教授。専門は労働経済論、社会政策論、人的資源管理論。著書に「韓国の経営と労働」など多数。

◆人を育てチャンス与え新たな雇用創出を◆

 ――政府は「創造経済」をスローガンに新たな成長力を見出す政策に力を入れているが、政府の経済政策に対する評価は。

 創造経済というのは、スローガンとしては非常に立派だし、本当に実現してほしいと思う。ただ、朴政権は今年で3年目になるが、創造経済に関する政策的なイメージを具体的に出したかといえば、そうとはいえない。つまり、今に至るまで、スローガンだけできてしまっている。恐らく、これまでの製造業にITを付加すれば、何か新しいものが出てくるのではないかという程度で、何か抜きん出たイメージはもっていないような気がする。

 全国に創造経済革新センターのようなものが出来ており、やってみる価値はあると思う。ただし、以前も産業パークのようなものはあった。私自身、実際に、ある産業パークを見学したことがある。パークには中小企業も入って、大手と一緒にやるようになっており、中小が「〇〇研究開発所」みたいなものを持っていた。これは素晴らしいと思い、その研究所を運営している中小企業を訪れてみた。ところが、とても開発ができるような状況ではなかった。まったく余力がないのだ。それで、企業の担当者に何故研究開発所なのかと聞いてみたら、政府の政策で、パーク内に研究所の名称で登録しなければ支援金が出ないということだった。まさに、名ばかりのものなのだ。

 ここから分かるように、実際の内実と政策の意図との間には大きなギャップがある。これを今後どう埋められるかが課題となる。だから、大手企業とベンチャーや中小企業が集まって一緒にやってみましょうといっても、立派な構想に過ぎない。今までの経験からすると、実際の内実を埋めるのは容易でない。ならば、真剣に問うべきは、いくつもある。大手やコア企業は、ベンチャーと一緒にやりながら、内実のあるものを生み出す体制を整える意欲と実力があるのか等々である。

 ベンチャーの活性化のためには実は重要な課題が一つある。それは、何をベンチャーとして認め、誰がそれを評価するか、ということだ。今まで韓国ではベンチャー育成を何度も試みてきたが、大して成功していない。その理由は、ベンチャーに対する認証機関がしっかりしていないからだ。ベンチャーと申請すれば支援金が出る。これが偽りのない実態だったかもしれない。重要なのは、どのような基準でベンチャーと認めるかだ。また、一度認めて育成する以上は、成果を出さないといけない。ベンチャーは失敗がつきものとはいえ、認定機関や育成機関に責任がないわけではない。ペナルティーまではいわないにしても、責任をもって結果をしっかり出せるような制度にしなければならない。この部分が韓国では非常に弱い。ベンチャーを認定し、評価する機関を設け、ベンチャーを正しく育成する制度をつくるべきと考える。

 ――韓日の経済関係が貿易縮小など萎縮している。韓日国交正常化50周年を期して改善してほしいが、改善の可能性をどうみるか。

 これまで韓日は、川上は日本が担って、川下は韓国が担うという国際分業を行なってきた。その一方で、電機電子や自動車分野では互いに競い合ってきた。こういった今までのパターンを乗り越える必要がある。いわゆるシナジー効果を考えた時だ。実際の例を取り上げよう。日本企業は素材や部品に強い。金型もそうだ。

 しかし、日本国内で金型を生産する所はむしろ下降気味で、開発や図面づくりはこちらでやるが、中国などに発注して逆輸入するパターンが増えている。この際、韓国に金型を発注すれば、非常に良い金型が作れるが、値段が高い。値段だけみると、中国のほうがはるかに安い。ただし、熱処理の問題がある。熱処理では韓国のほうが中国より技術力があり、値段が高いとしても強度の面や耐久性の面で中国に勝る。トータルで考えれば、韓国に発注するのが、日本にとって必ずしもマイナスにはならない。その意味で、韓日が価格競争ばかりをするのではなく、ノウハウの面で互いに交流しながら、新しい何かを作り出すような可能性があるのではないか。

 こうしたことを考えれば、今後はシナジー効果を高められる分野をどんどん発掘し、広げていくことが重要だと思う。ただし、そのために大切な前提がある。それは、社会的な雰囲気がもっとポジティブにならなければならないことだ。そうでなければ、互いに信用できないし、中々一歩踏み出せない。

 ――最後に韓国経済の先進化、発展のための提言を。

 韓国は人が一番重要な資源である。だからこそ、今のパラダイムを転換し、人を本当の意味での中心に据えるべきだ。今そうしなければ、新しい産業は創出されなくなる。産業が創出されなければ、雇用は創出されない。そうなれば、失業率は高止まりするだけだ。戦後、世界の経済が上り調子の時には、ほぼすべての国が完全雇用政策をとっていた。なぜなら雇用が何よりも重要だと考えたからだ。いま、その考え方を取り戻さなければならない。ただし、トリクルダウンで雇用を作るという安易な考えは禁物だ。むしろ、人をしっかり育て、人にしっかりチャンスを与えることで、新産業や新雇用を生み出すと考えるべきだ。これが経済政策で最も重要な点だと思う。