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2015/10/02

<Korea Watch>曲がり角の韓国経済㊤ ~金明中・ニッセイ基礎研究所准主任研究員に聞く

  • 金明中・ニッセイ基礎研究所准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。研究・専門分野は社会保障論、労働経済学、韓日社会保障政策比較分析。

◆急速に進む少子高齢化と二極化◆

 ――韓国は国民所得2万㌦を超え、先進国水準に近づいていますが、この数年は高度成長から低成長が続き、構造的に転換期の様相を呈しています。研究者の目からみて韓国経済の現状をどうみますか。

 今後韓国が高い経済成長率を維持するのは難しいと思う。今後は2~3%の間、或いは1%台に落ち込む可能性もある。しかも、韓国経済が直面した問題点がいくつかあり、それを解決しなければ今後さらに成長率は下がる恐れすらある。具体的な問題としては、財閥中心の経済を変える必要がある。韓国では経済民主化といわれているが、財閥と中小企業が共にバランス力をもって成長できるような経済の仕組みをつくらなければならない。そして、それを推進しながら、日本も同じだと思うが、二極化が非常に大きな問題になっているので、この二極化を解決することが大事だ。二極化というと一般的に所得の話しだけをするが、私の経験から言わせてもらえば、所得だけではなく、意識や考え方も二極化していると考える。

 今後の韓国経済における一番大きな問題は、少子高齢化が早いスピードで進行しているところである。子どもの教育等にかかる経済的な負担は多く、子どもの数は減っており、その結果、将来の労働力不足や社会保障の持続可能性が懸念されている。

 そして韓国経済は、日本や他の国も同じかとは思うが、自国だけでは既に成長できない仕組みになっている。将来に対する不安等から消費が落ち込み、内需がなかなか回復しない。そこには、1130兆ウォンに達する家計債務の影響もあるだろう。国はこれを解決するために国民幸福基金を設立した。これは国が借金を肩代わりしてくれるという世界にも例がない仕組みだ。しかしながらその効果はあまり大きくない。また、韓国は日本とは異なり、北朝鮮という存在があるので、北の動きと中国経済の変化に対応しながら今後の経済政策を実施するのが大事である。今、韓国経済は悪い悪いと言われながらもプラス成長を続けている。そこには財閥を含む大手企業の貢献があったことは否定できない。従って、今後経済民主化を推進する中で大企業と中小企業に対する政策バランスをどのように取り、経済の仕組みを修正していくのかが韓国経済の大きな課題となるのではないか。

 現職の大統領は自分が大統領を辞める時までに結果を出すことだけを考えず、より長期的な視点によって韓国経済や社会に貢献できる政策を進めるべきであり、それが与野党の間に緊密に協議され、政権が変わっても持続的に制度を実施すべきである。また、国民もそれが評価できるマインドに変わる必要がある。

 ――韓国政府は労働改革を叫んでいますが、労働改革の最優先課題は何だと考えますか。

 労働時間の短縮やセーフティーネットの構築など色々とあるが、全体的にみると、どういう形で新しい雇用を創出できるのか、これが最も大事だ。朴大統領は選挙公約で雇用率70%を達成すると話した。個人的には任期5年で雇用率をそこまで上げることは不可能だと思っている。恐らく朴大統領がやろうと考えているのは、ワークシェアリングだ。そのために、労働の柔軟性を拡大する政策や、既存の正規職の労働時間を減らし、企業がより雇いやすい仕組みが実施されるだろう。

 また、現在政府が推進している賃金ピーク制は、賃金上昇のピークを決めて、そこから賃金が下がっていくような仕組みをつくっておけば、企業の負担が減り、若者の雇用も増えるというのが基本的な考え方である。しかしながら、景気の低迷が続く中で、今後60歳定年が義務化されることにより中高齢者に対する雇用保障が強くなると、企業の負担は増加することになり賃金ピーク制による雇用創出効果は予想より小さくなる可能性が高い。特に、政府のビジネスフレンドリー政策により、最も大きな恩恵を受けているのが大手企業である事実を考えると、大手企業は恩恵を受けた分、社会に還元する、つまり若者を雇用するという考えを持ち、それを実行しなければならない。

 先日(9月13日)、労使政委員会の委員長は一般解雇や就業規則を変更する要件の緩和等を内容とする「労働大改革」が政労使委員会で合意されたと発表した。そもそも労働市場改革案は朴大統領の4大部門(労働・公共・教育・金融)改革の一環として、2014年から推進されており、約1年ぶりに結果を残すようになった。解雇基準の緩和等、労働市場の柔軟性を高める政策が期待通りの効果を挙げるためには、大手企業の協力が不可欠だ。

 韓国の一人当たりGDPは06年に2万㌦を超えてから昨年までの9年間、2万㌦台にとどまっている。たまに韓国はすでに先進国入りしたというと話しを耳にするが、今の韓国を先進国と言うのはまだ早い気がする。韓国が先進国に入るためにはまだ時間が必要だ。国の経済規模が大きくなることも大事だが、それ以外に企業と労働者の協力関係を構築することが重要だ。

 韓国の場合、日本や他国に比べて労働争議件数が多い。このため労働損失額が多く、その分が実際は賃金から引かれることになってしまう。こうしたところから、労使が互いに協力しながら韓国経済について考えることが重要だと思う。