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2016/01/29

<Korea Watch>揺らぐサムスン共和国 第23回                                                              国士舘大学経営学部講師 石田 賢 氏

  • 揺らぐサムスン共和国 第23回

◆期待先行の新設・電装事業チーム◆

 2015年12月、毎年の恒例となっている人事と組織改編が実施された。これまで大きな収益源であったスマホが、高級機種はアップルに押され、中低価格機種は中国の華為や小米の追い上げに合い、サムスン電子は、まさにサンドバッグ状態に追い込まれている。もうひとつの収益源である半導体は、価格が需給により周期的に浮沈を繰り返す性質があり、現在の世界的な需要低迷に加えて、中国企業の生産拡大が際立ち、供給過剰に陥っている。半導体の需給関係は大きく崩れ、メモリー半導体を中心に価格下落に歯止めがかからない。

 中国の半導体生産は国策である。14年6月、習近平国家主席は、半導体の内製化を目指す「国家IC産業発展推進ガイドライン」を制定し、原油の輸入額を上回る半導体を国産に代替する政策を打ち出した。具体的には、2兆円規模の「国家産業投資基金」を設立し、半導体分野に投資することを決定した。すでに中芯国際集成電路製造(SMIC)やファブレスの展訊通信(スプレッドトラム)など、米国市場に上場する企業が出現するまでに成長している。

 スマホに起死回生の名案はなく、半導体事業も供給過剰から値下がりが続いており安泰とは言えない。こうした中で実施されたのが、昨年末の組織改編であった。今回の組織改編で明らかとなった新設組織は、全社位置付けの電装事業チーム(権五鉉副会長直属のDS部門傘下)、CE部門のAV事業チーム、IM部門のモバイル・エンハンシング・チーム(ウエアラブル機器を集中開発するチーム)、PC事業チーム、DS部門のIoT(モノのインターネット)事業化チームなどである(図表)。サムスングループの長所は、組織改編が毎年定期的に行われることで、組織全体の軌道修正と活性化が図られていることである。1年前に立ち上げたビッグデータセンターであっても、成果がなければすぐに改組する。今回の新設チームで次世代事業として期待を集めているのが電装事業チームである。だがこの事業も簡単ではない。

 第一の課題は、電装事業に求められる長期的な観点からの設備投資を実施できるかどうかである。電装ビジネスなど自動車部品事業は安全性基準が厳しく、自動車メーカーとの何年にも渡る技術の緊密な協力関係が求められる。サムスン電子は毎年の事業評価という短期的な成果主義が徹底しており、3~5年かけての成功を是とする企業文化に欠けている。2年で結果を求めるようになれば、自動車メーカーからサムスン製の電装部品に安全と信頼を勝ち取ることができず、失敗に帰すことは明らかである。また自動車メーカーと部品メーカーとの連携構造は、何十年にも渡る信頼を積み上げて成り立っており、ここにサムスン電子が新規参入し、既存市場を蚕食していくのは至難のワザと言わざるを得ない。


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