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2019/03/29

<Korea Watch>揺らぐサムスン共和国 第61回                                                              国士舘大学経営学部講師 石田 賢 氏

◆ベトナム拠点を強化するサムスン電子◆

 サムスン電子は脱中国を進める中、ベトナムの生産拠点を軸に再編を急いでいる。

 サムスン電子のベトナム進出経緯を振り返ってみると、2009年のバクニン (SEV)に25億㌦投資して携帯電話の本格生産に始まり、近郊のタイグエン(SEVT)に50億㌦投資して生産拡張を図った。以後、テレビ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など家電製品の生産品目を増やし、ベトナム生産拠点は、総合家電メーカーの色彩を強めていった。

 中でも携帯電話の生産は、14年以降第1・第2工場のフル稼働で、現在は年間2億4000万台を誇る。さらにサムスン電子は14年に5億6000万㌦を投じて、ホーチミンのサイゴンハイテクパークに消費者家電(CE)複合団地を建設した。ここでサムスン電子はテレビの量産化を図り大半を輸出している。

 ベトナムの生産拠点化が進む背景には、ベトナムの若い労働力が潤沢でしかも勤勉であること(労働人口5510万人、18年3月末現在)、一人当たりGDP約2385㌦(17年越統計総局、図表①)と中国の8643㌦(17年、IMF)と比べても30%以下と安いこと、道路交通網、港湾施設などの物流基盤がある程度整備されたこと、政府の各種投資インセンティブと税制優遇措置(法人税4年間免除、賃貸料免除等)があること、さらに最近の米中貿易戦争を回避する意味など要因に加わり、総合的にベトナムの生産拠点としての魅力を高めている。

 ベトナムシフトは、韓国内の拠点再編を巻き込むとともに、中国事業の撤退・縮小に波及しながら加速している。具体例を挙げるならば、サムスン電子は17年中国深圳の工場、18年末に天津工場を相次いで閉鎖しベトナムに移転するなど、サムスン電子1社だけでベトナムへの累積投資額は170億㌦に達している。

 いずれにしても、韓国企業によるベトナム投資を大きく左右するのは、サムスン電子に他ならない。直接投資だけではなく、グループの部品・材料企業の進出を伴うことから、ベトナム経済への影響は計り知れない。

 サムスン電子のベトナム現地雇用人員は現在37万人(直接雇用17万人、協力会社20万人)に達し、18年の輸出額600億㌦は、ベトナム全輸出の約25%がサムスン電子によるものである。ベトナム経済をサムスン電子が牽引し、ベトナム輸出を主導しているほどの存在になっている。19年1月、サムスン電子はベトナム政府から「今年の代表企業賞」を受賞するなど、今やサムスン電子はベトナムの国民企業と呼ばれている。


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