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2009/05/29

<オピニオン>韓国経済講座 第105回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 韓国の対ドルレートは、昨年10月から今年3月までウォン安が進んだにもかかわらず、ドル建ての多い輸出は今年1月まで減少し、3月以降ウォン高に転ずると輸出も2月から増加に転じるなど、輸出競争力が出てきたことをうかがわせた。韓国の為替と輸出の関係が一般的傾向とは異なり推移する逆転現象について笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 昨夏の世界金融危機以降、G20による素早い対応にもかかわらず景気の縮小が続いている。震源地の米国は4月のFRB(米連邦準備理事会)地区連銀経済報告で「景気の悪化ペースが鈍化した」とし、事実今年に入り小売売上高などは下げ止まり傾向にある。

 それでもドナルド・コーンFRB副議長が4月20日の講演で、今回のリセッションからの回復は「遅い回復」になりそうだと述べたように先行き不透明なのが実態である。こうした状況を踏まえ、最近ファンドはドルを手放し金融部門から実物部門へ資金をUターンさせており、石油価格が再び上昇に転じ、トウモロコシ、金価格もこれに追随する傾向を見せている。

 韓国の場合はどうであろうか?李明博大統領は新年の演説で「2009年の李明博政権は非常経済政府体制で進める」と宣言し、景気回復に全力を注ぐことを強調した。そのため、昨年の14兆ウォンに上る財政投資で対応するとともに、今後4年間で50兆ウォンの投資で96万人の雇用創出を狙っている。目玉の一つとして4大河川整備を挙げ、これを「緑色ニューディール」政策とし28万人の雇用創出を達成する心算(つもり)である。

 こうした努力は最近になって効果を現わしてきた。財政投入効果として公共部門の雇用29万人増により失業者数も3月(失業率3・7%)から4月(同3・5%)にかけ2万人の減少となった。輸出も今年に入り毎月増加し、1月には212億㌦であったものが4月には306億㌦に回復している。この結果、第1四半期GDP成長率は対前期比で0・1%増となり、08年第4四半期のマイナス5・1%の下げを止めた格好となった。これに加えて経常収支黒字、株価上昇傾向なども回復力を支え、景気の早期回復論もささやかれている。しかし、政府は慎重で、こうした楽観論を制し、V字、U字回復ではなく、「尾の長いL字型」で推移するとしている。

 ところで、この間韓国は為替と輸出の関係に逆転現象が起きている。一般に為替レート(通貨価値)が安くなると輸出単価が引き下がるため輸出増加となり、逆にレートが高くなれば輸入に有利となる。

 しかし、08年9月のリーマンショック以降、為替と輸出の関係は一般的傾向とは異なって推移してきた。対ドルレートは、昨年10月から今年3月までウォン安が進んできたにもかかわらずドル建ての多い輸出は今年1月まで減少し、3月以降ウォン高に転ずると輸出も2月から増加に転じている。

 これに対し輸入はいわば教科書通りに推移しており、ウォン安が進むと輸入が減り、ウォン高に転ずると輸入も増加に転じている。

 こうした為替と輸出の逆転現象は、この間の金融危機による先進国市場の委縮が為替効果よりも強いことを示すものである。先に指摘した輸出の伸びは実はこうした逆転現象の中で起こっているものであり、為替要因ではなく市場要因に影響されたものである。

 注目したいのは、今年の2~3月にかけて為替レートがウォン安からウォン高に転換する中で、輸出入も増加に転じていることである。為替・輸出の逆転現象はそのまま続いているが、今度はウォン高輸出増であり、輸出競争力が出てきたことを窺わせるものである。こうした好材料を持続させることで景気の好転を促すことが求められている。


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