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2009/06/05

<オピニオン>韓国から秋田、世界へ                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • 韓国から秋田、世界へ

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から49回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、海を越えて韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。日本と似て非なる韓国社会や企業文化に接し、彼らは何を感じ、隣国をどう評価しているのだろうか。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任した佐藤登さんの異文化体験記をおとどけする。

 5月12日、ソウルの「9thアベニュー」で韓国ドラマ「アイリス」の制作発表会が報道陣および関係者を対象に行われた。本来のイベントとしては、制作が完了してから試写会として披露するが、今回はまだロケが終わったわけではなく、そのあとハンガリーでのロケに入るという途中での公開という異例のスタイルをとった。

 韓国ドラマとしては久々の大物ドラマであるが、韓国を越えて日本およびハンガリーが登場する国際的なドラマであること、韓国男優トップスターのイ・ビョンホン、T.O.P.、女優トップスターのキム・テヒを始めとする大物スターが6名で繰り広げるアクションと恋愛が折り重なる内容、制作費が約16億円、やがて世界38カ国で放映されることなど、とにかく話題と期待が大きいゆえに完了前のマスコミへの報道を行ったのである。

 報道関係の多さからも期待値の大きさがいとも簡単にわかる。

 秋田からも直接の招待者および関係者が26名出席し、私も急遽このイベントに入れていただき、90分にわたる映像公開を見て、スターのインタビューも直接聞いた。

 今回の映像公開は3月に秋田で行われた部分を集中的に行ったので、阿仁スキー場、田沢湖、乳頭温泉郷、「なまはげ」の宴会場面、さらにライトアップされた横手城と「かまくら」が幻想的雰囲気を醸し出し、スターの熱演と秋田の素晴らしい冬の光景が見事にマッチしている。映像が会場に映し出されると、参加者は食い入るように眺めていた。

 韓国ドラマで海外がロケ地になるのは少ないが、それも日本がそして秋田が選ばれたのである。これを見ながら感じたことは、9月から韓国で放映され、来年は日本、そして順次その他の国々で放映されれば、当然ながら秋田が世界から注目を集めることになる。秋田からの参加者は私も含めて感激感動し、「鳥肌が立つ」という言葉で表現された。スターのインタビューでも秋田からの出席者に御礼のメッセージも寄せられ、今回の秋田でのロケが関係者のおかげで如何に良かったかを裏付けている。

 では何故、北海道がロケ地とならなかったのか。考えても海外から見れば日本の冬は北海道の方が有名でありスケールも大きい。関係者にこの疑問を投げかけてみたら、結局、制作会社は最初に北海道へ打診したが、北海道側が断ったとのこと、そこで秋田が次の候補になったとのこと。他にも裏話として、いろいろな御苦労が関係者の間であったと聞いている。しかし結局、秋田力がこれを実現できたと言えよう。

 ともかく、このような大ヒットが保証されているようなドラマに秋田が大きな役割を担うこと、大変な苦労をされながらも実現に至らしめた秋田力は世界に自慢できる大きな力であり財産である。正に、「秋田から世界へ」の発信である。本公開の翌日と翌々日には韓国のニュースとしてインターネットでも大きく採り上げられている。

 ソウルと秋田を結ぶ大韓航空の搭乗率が低下していて存続も危ぶまれる最中、このドラマ放映のイベントを機に、様々な交流を行うことで搭乗率上昇の気運も高まる。ハード面、ソフト面の両面から日本を代表する観光立国として旅立つ日がやって来た。

 今回をきっかけに韓国内の秋田ファンが増えることを期待するが、期待を得るためには秋田の魅力発信が必要である。とかく秋田の県民性は奥ゆかしいため発信力・広報力に欠ける。素晴らしい観光地、素晴らしい食材、素晴らしい人情があるのに、それをPRしないのは勿体無いことである。今回の「アイリス」をきっかけに、秋田が世界へブレークできるよう、秋田出身の私の使命としても大いに推進したい。


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