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2009/06/26

<オピニオン>韓国経済講座 第106回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 韓国の対日輸入は、国内生産の生産財や中間財として投入され、特に輸出用として使用される対日輸入財が強く連動している。金融危機以降、対日輸入低下で輸出用輸入財も低下したが、輸入額は減少しても、そのうちの約46%は輸出生産に使用される品目が輸入されている。輸出生産に必要な対日輸入の「黄金比率」について笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 2009年に入り対日貿易赤字が改善傾向を示しているという。韓国貿易協会の統計で確認してみよう。09年1月から5月末までの対日輸出額は79億6400万㌦、対日輸入額は181億9700万㌦で対日貿易収支額はマイナス102億3300万㌦の赤字である。これを08年と比較すると今年の対日貿易の相対的規模が分かる。すなわち、昨年同時期の輸出額は120億1900万㌦、輸入額265億8300万㌦とそれぞれ34%、32%の減少で、貿易収支はマイナス145億6400万㌦とこれも30%の減少である。このことから、対日貿易赤字が昨年同時期の70%水準となり、今年に入って対日貿易収支が改善されているという訳である。

 さらに、08年1月からリーマン・ショックが起こった9月まで(危機前)の月平均対日赤字額は25億㌦であったが、08年10月から09年5月(危機後)までのそれは14億㌦であり、月平均の対日赤字額が危機後は危機前の56%までに縮小している。対日赤字額は00年に113億㌦と危険水域と言われた100億㌦台に入り、04年には244億㌦、08年には327億㌦と、わずか8年で対日赤字が214億㌦も増加してきた。この勢いが、09年に入って急ブレーキがかかっているというのだ。

 08年9月のリーマン・ショック以降急速に進んだ円高ウオン安で、本来韓国の対日輸出競争力は高まるはずである。が、現実はその逆で08年10月から09年5月までの対前年同期比の月平均対日輸出増減率はマイナス25・4%で、09年の5カ月だけでは同マイナス33・7%の減少である。つまり、この間対日輸出に関しては為替要因が作用せず、むしろ市場要因によって対日輸出が縮小したのである。これに対して、対日輸入は教科書通りウォン安が輸入不利に作用し、08年10月から09年5月までの対日輸入の対前年同期比の月平均増減率はマイナス25・8%、09年の5カ月間だけではマイナス31・7%の減少で、円高ウォン安の輸入コスト負担が高まり対日輸入縮小となった。

 ところで、韓国の対日輸入は国内生産の生産財や中間財として投入され、特に輸出用として使用される対日輸入財が強く連動していることが知られている。通貨危機以前は、企業の設備投資が活発に行われたため、電気機器、電子、機械などの対日輸入に占める比率が大きかったが、通貨危機以降、企業が投資を控える代わりに輸出製品国産化のために1次金属、化学製品、非金属鉱物類、輸送装備など部品・素材関連品目を増大させたため、これらの輸入比率が高まった。

 韓国銀行調査局の国際貿易チームが取りまとめた『対日貿易逆調膠着化の原因と今後の政策課題』(08・9、韓国語)によれば、対日貿易赤字項目に占める部品・素材の比率は00年には103・2%、05年には65・9%、07年には62・5%であり、部品・素材貿易赤字に占める素材の比率は、00年で40・2%、05年には50・5%そして07年には56・6%に達したとしている。こうした調査からも分かるように韓国の製品生産、特に輸出生産には予め日本の部品素材が組み込まれているのである。こうした生産構造が対日依存型の輸出生産構造として定着し、輸出を伸ばせば対日輸入も同伴するというジレンマを生んでいるのである。

 既に述べたように対日輸入は08年10月以降減少しており、その中の輸出生産用の輸入もほぼ似たような推移を示している。注目されるのは、対日輸入総額に占める輸出用の対日輸入額の比率である。この比率は2008年1月から09年5月まで40%から50%の間を推移しており、この間の平均輸出用輸入比率は46%である。

 金融危機以降、対日輸入の低下とともに輸出用輸入財も低下しているが、輸入額がいくら減少してもその46%は必ず輸出生産に使用される品目が輸入されているのだ。ある意味対日輸入額が臨界値にある危機後の輸出用輸入比率45%(08年10月から09年5月までの平均値)は、輸出生産に必要な対日輸入の「黄金比率」であり、今後輸出生産が上昇すれば、この「黄金比率」を維持し、絶対輸入量が増大するであろう。

 現在政府は、ウォン安を活用した対日輸入対策を進めており、これは対日赤字対策において、従来の対日輸入抑制による国産化方式から対日輸出促進による日本市場進出方式への転換と見ることができる。しかし、日本市場は平成不況以来のマイナス物価の中で極限までコストダウンが徹底しており、高インフレの中で生産される韓国製品には価格競争力はない。やはり対日赤字対策の王道は、品質向上、新製品開発などの非価格要因の強化により従来の国産化方式の確立かも知れない。


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