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2009/08/28

<オピニオン>韓国経済講座 第106回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 世界経済が「100年に1度」といわれる危機により低迷するなか、アジアの新興国が景気回復をけん引している。OECD(経済協力開発機構)の景気先行指数(CLI)が改善しているが、その原動力となっているのが、韓国、中国、インドなどの新興国だ。どの国も政府による財政支援で成長率が上昇基調にある。日韓中を中心にアジア経済の現況と課題について、笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 世界経済がこの100年振りの大不況から脱し、2000年代中盤に向かう成長のエンジンはアジア市場だ。

 最近OECDの景気先行指数(CLI)が改善されている。

 この指数は、産業活動動向、金融・通貨状況、国内総生産、住宅動向など加盟国の短期経済指標を取りまとめて算出したもので、通常6カ月後の景気予測に使用されている。100を基準とし、それ以上は好景気局面、下降すれば景気後退局面、100以下で上昇すれば景気回復を意味する。

 加盟国全体のCLIは2009年2月に92・7と底を打ち、その後徐々に回復し4月93・5、6月には95・7にまで回復している。だが欧米諸国の回復がこの数値を押し上げているわけではない。

 米国の4半期別の対前期比GDP成長率は、08年第4四半期マイナス5・4%、09年第1四半期マイナス6・4%、第2四半期マイナス1・0%と低迷し、EU圏は、欧州委員会によれば08年のGDP成長率1・0%、09年予測はマイナス1・0%、2010年は0・5%とこれも低迷状態にある。

 世界景気回復を牽引しているのはアジア新興諸国である。韓国のCLIは08年10月の90・6から09年1月91・9、3月95・5、そして5月には99・8と急上昇し、現在では景気の均衡点である100を凌駕したものと推察される。この指数の持つ意味からすると韓国は6カ月以内には好況局面に入ることになる。韓国銀行や韓国開発研究院の報告でも景気の下降局面から抜けつつあることが指摘されている。また、表に見られるように、09年に入りマイナス成長から脱し、民間消費が下支えをしている。

 日本は、2009年第2四半期に入りマイナス成長を脱した。これは昨年9月16日のリーマンショック前の8月29日の「安心実現のための緊急総合対策」で11・5兆円を財政投入し、10月30日に「生活対策」で26・9兆円、12月19日に危機対策の第3弾として「生活防衛のための緊急対策」で37兆円の財政投資、そして09年4月10日に第4弾の「経済危機対策」72兆円に及ぶ財政政策を行った結果と見られ、表の公的固定資本形成の伸びがそれを裏付けている。これに加えて輸出が回復基調にあることもGDP成長に寄与した。

 中国も大規模な財政出動で総固定資本形成、即ち民間住宅、民間・企業設備、公的固定資本形成などが進展し、その結果内需の回復がGDP成長率の上昇をもたらしている。この他、インドは08年のGDP成長率6・0%から09年は7・2%と予測されており、インドネシアも政府財政支出が09年1月~6月に対前年同期比で17%、個人消費も4・8%上昇し、同期間のGDP成長率は4・2%であった。

 欧米諸国が経済危機から脱出できない中で、アジアの成長新興国が景気回復の牽引車としての役割を果たしているのだ。しかし、掲げた表にも見られるように、これまで成長のエンジンであった輸出の伸びはマイナスで、日本も伸びたとはいえ6%程度でGDPを大きく押し上げるまでには至っていない。

 また、民間消費や設備投資も同様に低水準であり、今年に入っての景気回復は政府の財政支援によるところが大きい。2008年11月15日にG20の「金融市場及び世界経済に関する宣言」で各国の危機対応への共通認識が形成されて依頼、各国の財政出動により短期的に政策効果がアジアに現れ、欧米はいまだその効果が現れてないのである。

 景気回復が先行するアジア諸国も、企業・金融機関の負債、弱い雇用効果、輸出の低迷など本来の経済成長につながる要素はいまだ不確実な状況にあり、今後呼び水効果を成長効果につなげることができれば、ポスト世界金融危機後の世界経済の成長のエンジンとなろう。


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