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2009/10/02

<オピニオン>韓日ネットワークと連携                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から53回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。

 日本での久々の活動拠点を構えての生活・行動様式は一変した。業務内容は大きく変わったわけではないが、生活リズムは大きく変わった。

 第一に出勤時間が韓国の時代より早まったこと、外部との会議や交流、協議の場が増えて逆に定例会議が少なくなったこと、当然のことではあるが毎日、大好きな日本食が食べられることなど。

 元々、日本国内および海外とのネットワークをかなり築いて来た関係から、業務の進め易さはあるし、さらに今後の業務活動に伴い、日本と韓国本部との連携が一層強化されることにもつながる。

 さて日本の政治が大きく変わろうとしている中、米国もオバマ政権の下でグリーンニューディールの御旗の下、太陽光発電やスマートグリッドなどの政策方針が打ち出され、新たな景気刺激策が数兆円規模の巨額投資の下で進もうとしている。とりわけエネルギー政策は国際的なムーブメントとして大きな流れを創りつつある。

 一方、鳩山首相の最初の外交での日本の二酸化炭素削減25%目標、すなわち1990年対比で2020年には25%削減すると言う国際公約の提示に対して、各国から高い評価を得たことは大きな意味があるが、そして数値目標以上に重要なことは、どれだけ科学的論拠に基き実行できるかにある。日本の先端技術を積極的に導入し国の威信をかけた外交政策に期待がかかる。

 同様に、韓国の今後の政府施策でも日米と共通するグリーン政策を実施すべく、韓国国民の関心はもとより、世界からも注目を浴びつつある。太陽光発電は韓国での電気代の安さや個別住宅の少なさから発展するビジネスモデルのシナリオが見えにくく、その分、発展に遅れをとったが、今後は政府の重要政策のひとつとも位置づけられ、急速な発展をする可能性が高い。

 LGもサムスンもその下準備を急ピッチで進めているが、全世界的な動きとニーズがクローズアップされてきた現状にあっては、遅れをとった分の新たな戦略とビジネスモデルを立案して、後発であるからの強みを出していくことが求められるであろう。

 サムスングループで言えば、シリコン系や薄膜シリコン系は半導体事業を有しているサムスン電子の既存技術のノウハウと生産技術が生きてくるし、日本のソニーやフジクラが開発を進めている有機系太陽電池のひとつである色素増感型太陽電池では、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、あるいは有機ELの技術を有しているサムスンSDIが得意としていける分野でもある。

 一方、建設部門も有しているグループ企業としては、グループ内で開発した新技術を建築施設に最初から組み込めるビジネスモデルがあるので、このような強みを活かすシナリオは描きやすくなっている。

 経済大国にのし上ろうとしている中国でも再生可能エネルギーの普及化政策が打ち出され、規模の論理で環境大国を目指しつつある。もっとも中国の場合にはそのようなクリーンエネルギーの導入も重要ではあるものの、いまだに効率の悪い石炭火力発電が主流となっている状況を鑑みれば、今後の展開のひとつに、日本で開発され実用になっているクリーン石炭火力発電の技術移転も大きな効力をもたらすので、このような技術面での国際外交も必要と考える。

 問題は、中国での知的財産に関するコモンセンスが国際ルール上で議論される舞台と同一になっていないことにある。

 様々な商標侵害、特許侵害など、これまで多くの問題を巻き起こして来たわけで、このあたりの中国政府の発想の転換、国際社会での基準やルールで議論できる仕組み創りの自助努力が必要なことを自ら積極的に推進してほしいものである。

 いずれにしても国際競争力という武器を活用しながら、国際協調・国際協力を推進していくことが重要であるが、韓国と日本が世界的に強い技術を有している部分も多いことから、技術発信と技術協力を東アジア拠点化という方向で進めていくことがアジア経済を一層強固なものにしていくチャンスでもある。


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