ここから本文です

2010/01/22

<オピニオン>韓国経済講座 第113回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 昨年、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も速い回復傾向を見せた韓国経済。しかし、景況感の急速な改善にもかかわらず雇用問題が深刻化、韓国政府は「国家雇用戦略会議」を設置し、景気回復に向けた需要刺激から雇用創出に重点を切り替え始めた。機運高まる韓国の出口戦略について笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 2010年に入り、韓国経済の回復を指摘する発表が続いている。企画財政部の月例報告である『最近の経済動向2010年1月号』では生産、投資、輸出など実物経済の回復を指摘し経済不況の底を脱しつつあることを示す一方、消費や雇用など民間部門の一層の回復と原油価格など海外要因の不確実性も同時に強調した。韓国銀行は『最近の国内外経済動向』で、消費財販売額、設備投資指数が対前年同月で大幅に増加し内需が好転、物価安定化、輸出回復等による景気上昇を指摘しつつ、海外要因の不確実性から成長経路の不安定は残るとしている。

 韓国開発研究院(KDI)は1月の経済動向で、輸出と投資が増加し改善傾向が続いており、消費動向は耐久財の関連指標が大幅に伸び、準耐久財と非耐久財も同様な傾向を示し、設備投資も建設投資関連が今年に入り増加に転じるなど改善し、輸出は昨年後半期以来堅実な増加を維持しつつ、輸入の伸びも拡大しているとした。

 こうした早い回復を指摘する政府発表の背景を統計資料で探ってみたい。掲げた表の網掛け部分は、世界同時不況の契機となったとされるリーマンショック発生分期を示している。韓国経済は、対外依存度が高いこともあり直接影響を受け、それまで徐々に経済成長が鈍化してきたものが08年第4四半期には一挙に対前期比でGDPが10兆ウォン減のマイナス5・1%に急落し、その主要因が説備投資と民間消費、そして輸出入の激減であった。特に貿易への影響は深刻で、09年第4四半期までの1年間は輸出入とも4半期合計で1000億㌦に達することはなかった。

 しかし、09年第2四半期には、すでに危機以前のGDPに戻し、同第3四半期にはさらに成長が加速した。それは、輸出が低迷する中、企業の設備投資の回復が早く09年第2四半期、第3四半期には二桁成長を維持した。これは企業の保守的経営による内部留保が豊富だったためである。また、安定した貯蓄率に支えられた民間消費の回復も早く、内需の下支えが寄与したと言える。

 しかし、出口論を語る上で懸念材料もある。それは、金融危機以降、家計信用が増加し続けていることである。韓国銀行の『09年度第3四半期中家計信用動向』によると、家計信用は家計貸出と販売貸出に分かれ、同期で前者は95%を占める。その規模は家計信用713兆ウォン中家計貸出676兆ウォンであるが、中でも深刻なのは住宅貸出に含まれる住宅担保ローンが不景気の中で増大傾向を見せていることである。例えば09年第3四半期の預金銀行による貸出額(405兆ウォン)に含まれる住宅担保ローン(同260兆ウォン)は64%を占め、この額は08年第1四半期に比べ36兆ウォンも増加しているのだ。

 景気低迷が続く中で住宅を担保として貸出しを受ける家計が増大する状況は、先進国では見られない現象である。こうした背景には、リーマンショック以降、大幅な金利引き下げ、政府の銀行に対する資金支援策による流動性拡大、不動産関連規制の大幅緩和などの景気浮揚策が住宅担保ローンを増大させ、さらに中小商工企業者や自営業者が個人の住宅を担保にして事業資金貸し出しを受ける状況が増えていることによるものである。特に韓国の住宅ローン構造が変動金利・短期満期型であるため、家計債務が金利高騰や債務急増などによって出口状況を阻害することは容易に予想される。出口を見据えて、良好なマクロパフォーマンスのみならず、家計貸付けシステム改正、可処分所得増加などのきめの細かい対策も促進される必要がある。


バックナンバー

<オピニオン>