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2010/02/12

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ①世界一サムスンへの視線                                       ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

 近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。

 昨年のサムスン電子の売上が1170億ドルを超え、売上基準では独・シーメンスと米HPを超え、名実ともに世界最大のIT(情報技術)・家電企業となった。営業利益では昨年10兆ウォンを超えたが、日本の代表的電子企業15社の営業利益合計より多いとも報道された。

 サムスンは1969年に日本のサンヨーから技術協力を受け、電子産業へ進出。40年後には電子業界の最強者となった。今では、メモリー半導体、テレビ、LCDで確固不動の1位を占め、携帯電話でもノキアと世界1位の座を争っている。だが、このような成果に終わることなく革新を続け、2020年には売上4000億㌦達成で世界10大企業入りするという「サムスン・ビジョン2020計画」を発表した。果たしてサムスンは成長を続け、世界を代表する10大企業に名前を連ねることができるだろうか。サムスンが解決するべき課題について、幾つかの異なる視線からみてみる。

 まず、いままでのサムスンの最大の強みは何であったか。迅速・果敢な投資、事業システムの持続的革新と言えるだろう。この迅速性と効率性を武器にし、先んじた企業を次第に追い抜くことができた。ところがトップとなった後には、これを守るための事業戦略が必要となる。サムスンは自動車メーカー世界1位であるトヨタのリコール騒動を反面教師にするべき、という指摘がある。サムスン電子に求められるのは、チャンピオンとしての体質だ。更なる高い水準で革新を継続し、より効率的に経営資源を運営しなければならない。

 最近サムスンの代表的ライバル会社として挙げられる電子メーカーは、米アップルだ。同社の売上規模はサムスンの半分にも及ばないが、営業利益はサムスンの2倍以上になる。注目すべき点は、サムスンとは異なる「革新の内容」だ。サムスンが絶えずトップを追撃するための革新で成長したとすれば、アップルは新しい傾向や経路の製品を作る革新が繰り返された。アップルではMacPCのように占有率こそ高くないものの、こだわりを持つ顧客に集中した製品を製造。一方のサムスンは製品づくりで占有率拡大を最高の価値とした。しかし、サムスンが持つ驚くべき追撃力は、果敢な投資と生産システムの革新ゆえでもある。今後サムスンが持続的に成長し、1位の座を守るためには、アップルのような新しい傾向の創出能力も必要になるだろう。

 一方、日本の電子業界にはサムスンに学ぼうという雰囲気が造成されている。世界最高の技術力と豊富な技術力と豊富なインフラを持つ日本だが、サムスンに競争を挑んだ日本メーカーは、ことごとく苦杯を嘗めている。サムスンの製品、生産体制、マーケティング戦略、企業文化に至るまで、同社の成功理由と競争力を探して学ぶべきというマスコミの報道もある。また、核心技術の大部分を日本に依存してきたサムスンがいかにして日本企業より先んじたかに驚きながらも「1兆円の利益を上げるサムスン電子に学べ」と日本企業に提案。また、サムスンが1位を占めている従来の競争品(半導体、ディスプレー、テレビなど)と違い、日本が圧倒的優位される太陽電池分野でも、サムスンなど韓国メーカーの動きに注目している。太陽電池に対する圧倒的自信もいつの間にか不安感に変わっているのだろうか。ともかくサムスンの一挙手一投足を注目する日本企業が増えている。

 韓国内では、「サムスンが滅びれば、韓国が滅びる」という言葉もある。サムスン電子の株式の時価総額は韓国市場の時価総額の約13・5%(2010年1月基準)に達し、系列社を含めた売上総額は韓国のGDP(国民総生産)の5分の1(08年基準)だ。サムスン電子と関連会社、協力会社を合わせれば2万社以上。従業員及びその家族を合わせれば、韓国人口の4分の1程度がサムスンの興亡で影響を受けるかも知れない。そのような点から、サムスンの成長イコール韓国の成長であるという見方もある。ならば、サムスンの責任がそれだけ重大であるということも言及されるべきだろう。去る年末に特別赦免された李健熙・前サムスン会長に対する国民の視線は多少複雑なようだ。富の不適切な相続という観点から、赦免は適切でないとの見方もある。だが、サムスンのグローバル企業としての成長に大きく寄与した李前会長に対し、今後の持続的成長の役割を期待する気持ちもあるだろう。

 サムスン電子が昨年に創立40周年を迎えて発表した「ビジョン2020」の主要内容をみると、売上4000億㌦で売上規模世界10位、ブランド価値5位の目標を掲げる一方、尊敬される企業10位に跳躍するとしている。ビジョン2020に提示した具体的推進戦略の実現とともに尊敬される企業、サムスンの持続的成長を期待する。


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