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2010/04/09

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ③韓国の太陽電池産業の勝算                                       ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

 近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。

 3月3―5日に東京ビッグサイトで開催された第3回国際太陽電池展(2010 PV EXPO)での事である。日本の代表的な太陽電池メーカーS社の関係者が我々のブースを訪れ、会話の中で韓国の太陽電池産業に関連する有意味な質問を受けた。サムスンとLGが太陽電池産業に参加するというが、どの市場を狙っているのか及び勝算があるのかというものだった。

 太陽電池の需要市場という側面で非常に小さい韓国は輸出市場を狙うのだろうが、主要市場である欧州、米国、日本ならば既に絶対強者が存在するため勝算はないだろうとのこと。価格競争の深化によって利益を上げることが難しくなっている中、なぜサムスンとLGがこの産業に進出するのかという質問だった。

 半導体とディスプレー産業での主導権を韓国に奪われたゆえに、太陽電池に関しては韓国に絶対負けてはならないという日本の電子産業のプライドらしきものを感じ取れる。いままで日本の太陽電池業界では、国内市場が小さい韓国の太陽電池産業にはあまり関心を持たなかった。だが、サムスンとLGが本格参与することを前提に、韓国の太陽電池産業に対して警戒し始めているようだ。

 太陽電池産業は、ここ10年間に20倍を超える成長を遂げた。2000年に太陽電池の生産量は全世界で300メガ㍗にすぎなかったが、09年には9Gギガ㍗を超えた。導入された太陽光の発電量は6・5ギガ㍗で、市場規模も380億㌦に達している。主な市場舞台は日本から欧州に拡大した。日本と米国も、太陽光発電市場規模がさらに成長すると予想される。中国も国内市場を拡大している。

 供給量基準のトップ10には4社の中国企業がランクインし、これら4社の合計シェアは37%となった。中国製品の市場拡大も、低価型生産システムを通じた価格競争力にある。

 このように太陽電池市場では価格下落の傾向が大きいが、ドイツと日本の企業は価格競争力ではない技術と品質の競争力によって市場での地位を維持している。

 このような環境で、韓国の太陽電池産業が何をもってどのように競争していくのか考えてみよう。最近、韓国の太陽光産業協会が調査した結果によると、韓国の技術水準は先進国に比べて20~30%遅れをとり、価格競争力は中国より20~30%低いという。現在の韓国の太陽電池産業はサンドイッチの立場という表現も、公然に出回っている。実際、09年に韓国の国内市場へ供給された太陽電池モジュールの53%が中国産で、韓国産は26%にすぎなかった。

 サムスンとLGが太陽電池産業へ本格的に参与した場合、このような状況は改善するだろうか。韓国の電子産業を代表する両社の参与が遅れたのは、上記のような市場状況に対する充分な検討と競争優位要素の模索に時間を費やしているためでもある。

 もちろん、両社ともに技術的準備を継続し、研究所とテストラインで高い変換効率の様々な太陽電池を続々開発。核心部材を安定的に確保するための事業提携とM&Aも進行させている。

 LG電子は亀尾(グミ)のPDP生産ラインを転換し、120メガ㍗の太陽電池を生産する計画だ。2011年中には240メガ㍗に増設するという。LGディスプレーも2012年までに薄膜型太陽電池の量産体制を備える予定で、LGグループの動きは本格化している。

 サムスンは器興(キフン)に30メガ㍗のパイロットラインを建設した。これを土台にし、今年は大規模な量産投資によって300メガ㍗規模の生産能力を確保する計画だ。特に、李健熙(イ・ゴニ)会長の経営復帰を機に、果敢な投資に対する期待が高まっている。このようになれば、既に事業を進行している現代重工業とともに韓国の太陽電池メーカーの世界市場攻略は本格化するだろう。

 しかし、どの市場をどのように攻略するのかに対し、まだ明示する段階に入っていないようだ。

 韓国の経営者が愛用する用語には「選択と集中」もあるが、「力量の効率的分散」もある。欧州、米国、中国など地域別市場もしくは家庭用や発電所用などの用途市場を選択及び集中的に専門技術を開発することが望ましいのか、それとも様々な技術の駆使で顧客を開発していくのかといった戦略的な判断が要求されている。これをまだ明確化しないのは、それだけ市場環境が厳しいということだろう。

 日本の太陽電池メーカーが知りたいのは、おそらく韓国の太陽電池メーカーとどのように競争し、勝敗が何をもって分かれるのかだ。ボクシング選手がリングに上がる前に感じる楽しみと恐れの表現にもとれる。

 半導体とディスプレー産業で骨身にこたえる敗北を喫した日本の電子産業は、太陽電池分野で韓国と再び真剣勝負をすることになるだろう。


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