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2010/04/30

<オピニオン>韓国経済講座 第116回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 巨額の対中貿易赤字を抱える米国などから、人民元切り上げの要求が相次ぐ中、米国のガイトナー財務長官が中国を訪問して、人民元を早期に切り上げるよう要請したと伝えられるなど、人民元の切り上げが既に秒読み段階に入っているとの観測が流れている。人民元切り上げによる韓国経済への影響について笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 中国人民元が世評通り切り上げられると韓国経済はどんな影響を受けるのか。人民元切り上げ圧力は、リーマン・ショック以降一層強まってきた。中国が通貨価値を著しく低く維持させてきたために「元の過小評価がグローバル危機の回復を遅らせている」という非難が高まってきた。これに対し、急先鋒のアメリカは今年4月8日にガートナー財務長官を中国に送り切り上げを強く迫ったものの、中国は明言を避けたとされる。温家宝首相はこの間切り上げに対して「人民元の為替レートは中国が自ら、徐々に、合理的な範囲内で調整する」という原則を言って、対外圧力を排してきた。4月12日のオバマ・温首脳会談では、人民元の切り上げについて、中国の判断を尊重する姿勢をオバマ大統領が示したことにより中国が自主的に人民元を切り上げる環境が整った。

 さて、切り上げとはいえいくつかの方法がある。アメリカは短期間に大幅な切り上げを要求してきた。2009年に2268億㌦に達した対中貿易赤字を減少させるためにも、短期に、大幅に切り上げられれば対中輸出競争力が高まるとともに、安価な中国製品に押されている国内企業が一息つくことになるからだ。

 しかし、中国側の主張のように徐々に切り上げが進むとこうした効果は低く、むしろ中国産業に有利に作用する。中国はかつて05年7月に固定相場制から管理変動相場制に変更し、人民元は対ドル比21%も切り上げられたが、世界金融危機の兆候が現れたこともあり08年7月には1㌦=6・82人民元と事実上固定相場制に復帰し、同年8月、9月のリーマン・ショック時には6・85人民元とやや切り下げたものの、その後現在まで6・82~6・83人民元を推移し徹底した為替管理を行ってきた。そのことが中国の輸出を伸ばし、輸入を抑制したため各国は対中輸出に制限がかかり、アメリカをはじめ世界経済回復の足枷となってきたと言われてきたのである。

 この為替水準を徐々に切り上げると、比較優位産業と比較劣位産業の格差の大きい国内産業への不利化が緩和され、特に劣位産業に配慮する政府は支援政策との合わせ技で切り上げ被害を抑制することができる。また、人民元切り上げは上海万博などの建設ブームによるバブル現象の抑制や輸入物価の押し上げ作用がインフレ抑制効果をもたらすことも期待される。短期的な輸出不利・輸入有利の為替切り上げ原則も漸進的切り上げにより、相当程度不利化作用が吸収可能と思われる。漸進効果は外資流入効果をももたらす。すなわち、徐々に人民元が引き上げられれば、為替差益を見込んだ投機マネーが流入し、外貨準備のさらなる増加となり、国内投資効果や元高とともに投入財輸入の促進効果が生ずることになる。こうしたことを考慮すると中国人民元の切り上げ効果は、アメリカよりも中国に有利になりそうである。

 韓国経済にはどのような影響があるであろうか。一般的には人民元が切り上がれば、その分韓国の対中輸出競争力が高まり輸出増大が期待される一方で対中輸入はコスト高となり減少する。したがって、09年で総輸出の23・9%を占める中国市場への価格競争力が高まることによって韓国の輸出増加効果は大いに期待される。しかし韓国貿易協会は「元切り上げが韓国貿易にもたらす利益はそれほど大きくない」とする。つまり、人民元の切り上げ幅はそれほど大きくなく、ウォン自身も高まる可能性があるため、結局のところ韓国にとってはそれほど切り上げ利益がもたらされないであろうというものである。

 元切り上げの影響は韓国の対中進出企業にも大きな影響がある。韓国貿易協会の調べによれば、韓国の総輸出に占める中国の内需市場向け輸出は12~14%、中国で加工し海外に輸出する分が10~12%のため、対中輸出構成は内需向け、外需向けがほぼ半々に分かれるという。韓国から素材、加工部品を導入している多くの企業はコスト安になるが、中国経由の輸出企業の場合は切り上げコスト圧力が高まるため、内需転換などの市場確保が必要になろう。

 切り上げの影響を長期的に見ると中国経済の成長力を削ぐと思われるが、第1四半期の暫定経済成長率は12~13%と依然成長力が強いことから、漸進的切り上げであれば韓国の対中進出輸出企業は、かえって内需市場転換のチャンスかもしれない。

 中国の元切り上げが間近に迫る中、韓国への影響が懸念されるもののこれを好機に捉え、むしろ対中FTA締結の契機にすることが必要ではないであろうか。


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