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2010/08/06

<オピニオン>韓国産業の強みと弱み                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から63 回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。

 昨今、日本のマスコミは韓国企業の躍進振りを記事としてとりあげるケースが急増している。これは実際に韓国の企業が世界的にもシェアを拡大し国際競争力を高めている事実があるから当然と言えば当然なのだが、それにしても多くの産業で強みを発揮していることに変わりはない。

 サムスンが展開している半導体、液晶テレビ、携帯電話、リチウムイオン電池、LEDなどの業績は年々拡大方向にあり、世界シェアNO1の品目も多くなってきた。LG、SK、ポスコ、現代自動車も世界市場での業績と認知度を上げている。現代自動車の傘下にある起亜自動車も純利益を大幅に拡大し、その存在感を高めている。

 一方、上記のような大手財閥系での業績はすこぶる良いが、中小の企業群になるとその存在感が薄れ、国際競争力も概して低いのが政府レベルでの課題になっている。例えば、液晶パネルやリチウムイオン電池の素材関連で言えば、日本の素材技術が圧倒的に高いこともあって日本に依存している部分が多い。

 製造装置分野でも同様であるが、これは見方によって、強みは強みで拡大し、弱い部分は他国とのパートナーシップで補完していくグローバルビジネスモデルと受け止めることもできる。

 しかし、そこで韓国政府が素材関連分野の国家的育成として打ち出したのが「WPM(World Premier Material)」戦略である。これは韓国内の技術分野の産業に対して、国際的に弱いとされている素材分野の育成事業であり、政府がかなりの力を入れたプロジェクトとなっていて韓国内での台風の目のような存在感がある。

 分野も多岐に亘る包括的なものであり、知識経済部が中心となった韓国政府の積極的な国策プロジェクトとなっている。2010年1月から3月までWPM企画委員会のもとで審議を図り、本年4月1日に、知識経済部は「世界市場先取10大素材(WPM)」と「20大核心部品素材」の選定結果を発表している。

 WPMでは世界で初めて商用化あるいは市場を創出するもので、持続的な市場支配力を有する10大素材の開発と定義され、10年から18年まで政府の投資は1兆ウォンとなっている。市場規模は10億㌦、世界市場シェアは30%以上をターゲットにしている。

 分野別では、金属、融合、化学、セラミック、繊維があるが、化学分野での技術にはフレキシブルディスプレイ用プラスティック基盤素材、高エネルギー二次電池用電極素材が含まれており、時代のトレンドと連動している。

 一方、20大核心部品素材の開発においては、現在、市場需要が大きいものや今後の需要急増が予測される20個の部品素材開発をターゲットにしており、10年から12年の政府投資は2000億ウォンとなっている。この分野には、化学、繊維、金属、電気・電子、自動車、機械・造船が含まれる。

 電気・電子分野にはディジタルディスプレイ用LED―BLUパネル、自動車分野にはハイブリッド車や電気自動車用次世代車両用電力モジュールが含まれている。

 一方、日本の素材分野は世界に冠たる技術と製品競争力を誇るが、これは世界に先駆けた鉱山開発や繊維産業などの基盤産業技術を展開した成果となって受け継がれている。

 昨今では資源が不足しているものや輸入に依存した資源に対し、付加価値を付けられないと競争力を構築することができないため、製品化のプロセス技術開発に入念である。

 韓国内での半導体産業、ディスプレイ産業、そしてエネルギー産業が更なる発展を遂げようという機運の中で、海外企業、とりわけ日本企業の韓国進出も活発になっている。

 単独の進出、韓国企業との合弁事業などスタイルはそれぞれであるが、今後の競争力を高める軸は、素材分野での競争力確保と低コスト生産技術があげられる。

 素材も製造する企業によって製法が異なりコストが異なるように、素材コストのウエイトは一層重要になっていく。韓国内では今回のWPM国家プロジェクトにより、大きな成果が生み出されるものと期待されている。


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