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2010/10/29

<オピニオン>韓国経済講座 第122回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

◆G20で3カ国の連携強化を◆

 僅か2年前のことだ。3人は次のように言っていた。
 
 「我々は、先ほど、共同声明に署名をいたしました。声明では、3カ国協力の原則として、開放性、透明性、相互信頼、共益、多様な文化の尊重をうたい、未来志向で、協力を進める決意を、表明しました」。

 「中日韓というのは近隣諸国であります。東アジアで重要な影響をもっている国であります。平和的、協力的な発展は3カ国が希望しているものであり、そしてこのアジア地域の安定と繁栄に必要不可欠のものです。」

 「今日、地域間の協議のみならず、ASEAN+3、アジア全体の協調として実体経済の危機に備えるべく、3カ国の協力が非常に大切です。また、本日の首脳会議は多くの国々が大きな関心を持って見ています。そうした意味で、今回、3国の協力関係を築くことができたことは歴史的であると考えますし、そしてそれを行動計画として、行動を実施することで合意できたことも意義深いことであると考えます。」

 冒頭から引用が長くなったが、これらの言は去る2008年12月13日に急きょ開催された「日中韓サミット」の終了後に行われた記者会見の、順に麻生総理、温家宝総理、李明博大統領の発言である。08年9月のリーマンショックに端を発した世界金融危機に対応することを、初めて3か国首脳が合意した強い絆である。この会合で特に通貨協力において、09年4月までの時限措置(後に09年10月30日まで延長)で韓国は日本(200億㌦)、中国(283億㌦)との通貨スワップ枠を確保した。この結果、韓国は従来の米韓スワップ協定(300億㌦)に加え、ドル需要が高い時に外貨保有高世界1位、2位の国の支援を得ることができたのである。

 今日こうした3カ国の絆は既に風化したのか!中国漁船逮捕に端を発した日中間の領土侵犯問題、その波及は反日運動へ拡大している。また、ここにきて急浮上している、いわゆる「為替引き下げ戦争」においてもこの「絆」に亀裂が生じ始めている。独歩高を続けている円に対して、民主党政権が、先の衆議院予算委員会での対政府質問で、首相と財務大臣が韓国を中国と共に、為替市場への介入国として名指したことに対して韓国側は反発を強めている。韓国が断続的なウォン売り介入でウォン安誘導を実施していることは外為市場では広く知られているとされる。中国も元安維持のため大規模介入を行っており、こうしたいわば「公然の秘密」となっている政府介入に対する対応としての日本政府の答弁だ。

 もちろん韓国当局は認めていないが、しかし、韓国は来る11月11日と12日に開催されるG20首脳会議の議長国であり、為替安定に対する取り組みを主導しなければならないと言う重要な立場にあることから国際協調を図らなければならない。

 日本政府も9月15日に6年超ぶりとなる2兆円規模の円売り介入を実施したものの短期効果の後は逆に円が買われ、介入以前水準を上回った。もし、定期的な介入となれば、米国に歓迎されない。米連邦準備理事会(FRB)が10月20日発表した地区連銀経済報告は、景気回復の足取りが、新規雇用を生み出せないほどに弱いものの、米国内の経済活動はそのペースは緩やかだが、引き続き拡大した、として現状維持で回復してゆく見通しだ。そうであれば中国元の引き上げ、日本政府の円再介入などと言う撹乱要因阻止は必至である。

 かつて似たような状況は1985年のプラザ合意以前に見られた。当時ドル高によるアメリカの双子の赤字(国際収支赤字、財政収支赤字)への対策として、特に円とマルクを中心に先進国が市場介入を実施した。この時は日本、ドイツが市場介入を受け入れ、為替安定の国際協調が実現された。さらに遡ると、「暗黒の木曜日」として有名な1929年世界大恐慌の要因で、他人を犠牲にして自国利益を優先する競争的為替引き下げ、ブロック化と言ったいわゆる近隣窮乏化政策である。最大債権国となった新興大国米国に対抗するため債務国に転じた欧州諸国が貿易黒字出そうと採った手段である。

 現在最大債権国である中国がプラザ合意の日独の様な受入れを行うのか、それとも近隣窮乏化をもたらす為替戦争が激化されるのか、この舵取りを任されるのがG20議長国である韓国だ。冒頭の日中韓首脳の言は今こそ実現されるべきであり、その意味で日中韓のG20での役割は大きい。もう一度3か国の絆を強めて対応することが「大恐慌」への道を回避する選択肢である。


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