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2010/12/17

<オピニオン>韓国経済講座 第124回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

◆V字回復力の持続を

 2010年の韓国経済は、02年の7・2%の好景気に次ぐ6・1%(韓国銀行)と予測される。IMFは6・1%、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスも6・0%と予測している。北朝鮮砲爆事態などカントリーリスクが高まった中で、経済は好調を維持し続けた年であった。

 08年第3四半期に起こった世界金融危機の年から、四半期ごとの実績を表に示した。GDP総額では08年第3四半期は248兆ウォンとこれまで四半期別の最高値を記録していたが、金融危機の影響を受けて同年第4四半期には236兆ウォン、09年第1四半期も237兆ウォンと10兆ウォンもGDPが激減した。

 しかし、先進経済がそのまま低迷する中、韓国は1年後の09年第3四半期には危機前の248兆ウォンを上回る250兆ウォンに達した。回復の過程(対前期比)を見ると、2四半期程停滞したが、この間は民間消費と設備投資が下支えをした後、09年第1四半期に景気が好転し、GDPの増加局面に入った。この要因は外需寄与度が上昇局面に入ったことであり、これまでの「回復局面は輸出が牽引する」パターンに入ったことを表している。

 韓国の回復は、IMFによれば10年経済成長率がG20諸国の内で5番目の高さにあり、上位4カ国はいずれもIMFが新興・開発途上国に分類しているため、先進国の中では韓国が最も高いという評価を得ている。

 しかしながら、表に示されるように10年の四半期の推移は低下傾向にある。それは回復局面が終わり、下降局面に入ったことを示している(対前期比参照)。

 11年の成長予測は、多くが思わしくない。IMFは、来年の成長率を4・5%、OECDは4・3%と見通し、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ(BOA)、メリルリンチが4・6%、モルガン・スタンレーは4・5%と予想している。

 国内では、韓国銀行4・5%、韓国開発研究院(KDI)は4・2%、現代経済研究院は4・3%と予想した。LG経済研究院も4・0%とし、サムスン経済研究所は3・8%と低い予測を出した。かかる要因を韓国銀行は、物価上昇による内需の低迷、輸出伸び率低下(16・1%から9・6%)、これに伴う設備投資伸び率の低下(24・3%から6・5%)。そして、雇用も33万人から来年は26万人の増加にとどまると予測している。

 韓国の急回復にブレーキがかかったのだろうか?来年の成長率鈍化は今年の成長率の高さによる反動もあり、景気低迷と判断するのは早計との見方もある。

 しかし、実はそんな短期的な見方ではなく、韓国のファンダメンタルズを評価する予測がある。OECDは、その中長期経済見通しにおいて、韓国の10年から15年の実質GDPが平均4・3%増加し、成長率は加盟32カ国のうち、チリと並び最も高いと予想し、同期間のOECD平均成長率が2・7%予想からすると韓国の成長率が極めて高いと指摘した。

 潜在成長率も、韓国は10~15年平均3・7%と、OECD加盟国で最も高くなるとし、韓国が長期的にも財政および金融部門で最高水準の安定を維持し、失業率も15年に3・5%と2番目に低いためと説明している。

 この予測の真偽はともかく、中長期的に見れば25年からは人口減少局面に入り、それまでに少子高齢化の進行による社会的・経済的コストは高まり続ける。ファンダメンタルが良好なうちに、こうした中長期的な対策が急がれる。


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