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2011/04/22

<オピニオン>転換期の韓国経済 第15回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第15回 

◆役割終える国内ニュータウン開発◆

 急速な都市化に伴う住宅不足に直面する新興国が韓国のニュータウン開発に関心を寄せる一方、韓国政府・企業が海外の都市建設に積極的に乗り出したことを前々回指摘した。

 この背景には、韓国にはニュータウン開発を比較的短期間で成し遂げ、そのなかで低所得層向けの住宅供給を図ってきた経験があること、また国内では郊外に大型アパートを建設するニュータウン開発の役割が基本的に終了したことがある。

 ニュータウン開発は1988年に発表された「住宅200万戸建設計画」に基づくものである。第一期の開発は90年代半ばに完了した。

 住宅普及率(住宅戸数/世帯数)が90年の72・4%から97年に92・0%へ上昇したほか、90年から2000年の間に人口がソウルで79万人減少したのに対して、ニュータウンが多く建設された京畿道では278万人増加したように、大量の住宅供給とソウルへの人口集中緩和という目的は一定程度達成された。

 第二期の開発は2000年代に入って開始された。

 ソウル特別市のなかでも江南地域の住宅価格高騰を受けて、金浦市、坡州市が新たな開発地に指定されたが、ニュータウン開発を取り巻く環境はその後急激に変化した。

 一つは、予想を超えた少子化の進展である。合計特殊出生率は91年の1・71から00年に1・47へ低下した後、01年に日本を下回る1・30、05年には1・08となった(09年は1・15)。

 少子化の加速は通貨危機後に生じた所得・雇用環境の悪化に加えて、養育(教育)費の負担増加によるところが大きい。少子化の加速に伴い人口増加ペースが鈍化し、19年には減少に転じると予測されている。

 他方、ニュータウン開発と不動産開発ブームにより住宅供給が拡大した結果、韓国全体の住宅普及率は08年に109・9%、ソウルでも93・8%へ上昇したように、住宅の量的不足は基本的に解消した。

 むしろ第一期の盆塘ニュータウンでは人口が減少に転じ、高齢者人口がこの10年間で70%増加するなど、「シルバータウン」化が進んでいる。

 住宅需要に大きな影響を及ぼすのが人口の年齢構成である。70年時点の人口構成はほぼピラミッド型をしており(下図)、進学、就職、結婚などを通じて将来の住宅需要が見込まれる10~29歳の人口は全体の39・4%を占めていた。これがニュータウン開発を促したといえよう。

 その後、同割合は00年に32・3%、10年には27・5%(推計)へ低下するなど、同年齢人口は10年間に約170万人減少した。

 こうした環境の変化を受けて、住宅政策の目標が量的拡大から質的向上へシフトした。03年に制定された住宅法では、政策の目標が居住水準の向上と既存住宅ストックの効率的管理に置かれている。

 さらに近年生じた不動産市況の悪化が、ニュータウン開発を見直す契機となった。すでに建設されたものを除き、事業規模の見直しが行われている。

 ニュータウン開発が見直されているもう一つの理由に、都心回帰の動きがある。ソウル特別市では現在、光化門周辺、龍山駅周辺、汝矣島などで大規模な複合開発(オフィス、商業、住居機能の結合)が進められている。

 ①都心再開発の方がニュータウン開発よりも財政的負担が小さいこと、②ニュータウンの住宅販売が振るわなくなった半面、居住者の都市志向が強まったこと(職住近接、ショッピング・文化的機会へのアクセスの良さ)、③グローバル化が進展するなかで、「都市の集積機能」が再評価されたことによるためである。多くの企業、情報、優れた人材、インフラが集積する都市は、第三次産業全般の生産性向上や新産業の育成に寄与すると考えられている。

 以上のように、韓国ではニュータウン開発の「歴史的な役割」が終わりつつあるなかで、政府・企業はそこで培ったノウハウ(環境技術や都市マネジメント技術を含む)を活かすべく、新興国の都市開発事業に積極的に関与し始めた。アジアではベトナムやカンボジアが中心である。


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