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2011/07/15

<オピニオン>転換期の韓国経済 第18回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第18回

◆増加する対インドネシア投資◆

 韓国企業による新興国市場の開拓が積極化するなかで、近年インドネシアへの投資が直実に増加している。韓国輸出入銀行の統計によれば、インドネシアへの直接投資額は2009年の3・3億ドルから10年に8・7億ドルへ増加し、インドネシアは韓国の投資先として8番目となり、ベトナムを上回った(下表)。他方、インドネシア投資調整庁の統計では、10年に韓国はインドネシアにとって9番目、11年1~3月期は6番目の投資国となっている。興味深いことに、インドネシアに対する関心は日本企業の間でも高まっている。国際協力銀行が毎年実施している『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によれば、中期的(今後3年程度)な有望事業展開先として、インドネシアは09年の8位(得票率10・8%)から10年に6位(20・7%)へ上昇した。

 インドネシアに対する関心が高まった要因として、スハルト政権崩壊後にみられた政治の不安定さがなくなったことに加えて、以下の3点が指摘できる。

 第1に、成長の持続により、人口2・4億人の市場としての魅力が増したことである。多くのアジア諸国が世界金融危機の影響により減速した09年も実質GDP成長率は4・5%を記録した。輸出依存度の低さが世界経済変動の影響を受けにくくしている。10年1~3月期以降、5~6%台の成長が続いており、10年には1人当たりの名目GDPが3000㌦を超えた。第2は、生産拠点としての魅力が増してきたことである。中国沿海部やベトナムにおける賃金上昇や人手不足などを背景に、インドネシアへ生産拠点を移す動きがみられる。第3は、一次産品価格の上昇が所得の増加につながっていることである。インドネシアは原油に関しては純輸入国に転じているが、それ以外の主力輸出品である天然ガス、天然ゴム、石炭、パームオイルなどの価格上昇が同国の所得増加に寄与している。

 近年、自動車や携帯電話などの販売が急拡大しており、10年の自動車販売台数は前年比57%増の76・4万台となった。消費の拡大を支えている要因には、①所得の上昇に伴う「中間層」の増加、②消費者金融の発達、③インフレ抑制(インフレが悪化した08年との比較)を受けての金利水準の低下などが指摘できる。

 韓国企業をみると、拡大する現地の需要を取り込む事業展開が目立つ。自動車市場では韓国車の存在が薄いのに対して、家電市場ではLG電子、サムスン電子が「手頃な」価格、現地ニーズに合った製品、豊富な品揃えを武器にシェアの上位を占める。最近、積極的に事業展開しているのはロッテグループである。インドネシアに総合スーパー(オランダ系スーパーを買収)と会員制卸売店を持つ同グループは、ロッテデパート1号店を12年に開設する計画である。このほか、ロッテリアの展開や免税店の運営など以外に、石油化学分野への進出も計画していると報道されている。

 家電・自動車市場の拡大を受けて、POSCOはインドネシア国営の鉄鋼会社クラカタウスチールと一貫製鉄所の建設に乗り出した。POSCOはインドでも一貫製鉄所の建設を計画しており、アジア地域で主導権を握ることになる。このほか、銀行や証券会社でも進出が検討されている。

 インドネシアが持続的成長を遂げる上でネックになっているのがインフラ整備の遅れだ。政府は民間資本を活用しながら、鉄道・道路などの交通網、電力やエネルギーの開発を進める計画である。韓国政府も援助を通じ、こうしたインフラ整備を支援していく方針のほか、プロジェクトの受注獲得に向けた官民一体の取り組みを強化している。新興国の需要取り込みをめざす日本企業にとって、韓国企業の動向に十分な注意が必要である。


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