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2011/08/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第19回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第19回

◆貯蓄銀行経営破綻の影響◆

 カンボジアでは韓国企業が不動産開発を積極的に推進してきたが、韓国で生じた不動産市況悪化の影響が現地の事業に及んでいる。カンボジア経済は90年代まで内戦、政治的混乱などの影響で低迷していたが、2004―07年は10%を超える高成長を続けた。その後、世界経済後退により減速したが、10年は6・0%へ回復し、一人当たりGDPも01年の309㌦から10年に814㌦へ増加した。依然としてアジアのなかでは最貧国の一つに数えられるが、今後の成長が期待できる国である。

 成長の原動力は、①衣服・履物などの輸出向け労働集約産業の成長、②観光収入の増加、③建設投資の拡大である。衣服・履物産業が急成長したのは、中国でブランド品を米国向けに生産していた香港、台湾、中国、韓国系企業の生産シフトが進んだためである。生産シフトが進んだ要因の一つは、MFA(多角的繊維協定、04年末に失効)にもとづく数量規制により中国の輸出が抑制されたのに対して、カンボジアでは輸出余力があったこと、もう一つは中国における賃金ならびに人民元が上昇したことである。

 また、カンボジアにはアンコールワットに代表される世界的な観光資源が存在し、訪問者数は増加傾向にある。観光産業は労働集約的であるため、その成長は雇用創出に寄与するだけでなく、ホテルやインフラの建設などにつながっている。

 カンボジア政府は現在、農水産加工をはじめ新たな製造業とサービス産業の育成を図っており、そのためのインフラ整備に力を入れている。①ポイペト、プノンペン、シアヌークビルなどに経済特別区が相次いで設置されている、②シアヌークビルでは日本のODAを受けてコンテナターミナルが拡充されている、③南部経済回廊(ホーチミン、プノンペン、バンコクを結ぶ道路)の建設が計画されているなど、港湾や物流網の整備が海外企業の進出を後押しするものと考えられる。

 こうしたカンボジアで存在感が増しているのが、中国とならんで韓国である。カンボジア投資委員会によれば、韓国の投資認可額は08年は第2位、09年は第6位で、94年からの累計では中国につぐ第2位である(下図)。また、10年のカンボジアへの旅行客数はベトナムにつぐ第2位となった。

 また今年に入り、現代自動車がタイ国境近くで操業を開始したほか、7月11日には韓国の支援を受けて証券取引所が開設された。韓国の存在感が増大するのに伴い、同国では韓国語を学習する人が増加している。

 韓国企業の投資で目立つのが不動産開発である。新興国における急速な都市化に伴う住宅不足と国内における建設投資の伸び悩みを背景に、韓国企業が近年アフリカや中近東、アジアでのニュータウン開発に積極的に関与していることは以前指摘した。

 カンボジアでも近年、首都プノンペンでの再開発が進められ、スラムや古い建物が取り壊されて高層マンションやオフィスビルなどが建設されている。韓国企業はプノンペンで42階建て高層ビル、プノンペン郊外でニュータウンの建設を推進して注目を浴びてきたが、韓国の不動産市況悪化の影響を受けて、これらの事業は現在中断している。

 とくにニュータウンはカンボジアと韓国の国名の頭文字をとって「Camko City」と名づけられたように、住宅、商業施設、金融センター、教育・文化施設などの建設を含む大型事業である(18年までの総事業費は20億㌦)。この事業の企画から融資に至るまで主導的な役割を担っていたのが釜山貯蓄銀行であるが、同行幹部の逮捕と営業停止によって先行きが不透明になっている。事業の継続には韓国政府の支援が不可欠との見方もある。

 民間企業による海外不動産開発にはさまざまなリスクをともなうものであるが、鳴り物入りで始まった大型事業であるだけに、今後の対応如何によっては、韓国企業ないし韓国に対する評価を著しく損なう恐れがある。韓国政府には適切な対応が求められている。


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