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2011/12/09

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ 第23回 韓米FTA批准、国民はどこにいるのか                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆内需活性に向けた早急な政策を◆

 先月に続き、今月も韓米FTA(自由貿易協定)について考えざるを得ない。11月22日、与党のハンナラ党は韓米FTA批准案の処理を強行した。処理時間は5分にも満たなかった。野党は、与党の初歩的な国会運営に対応しきれなかったという。同月29日には、大統領が細部履行法案に最終署名。これにより、韓米FTAは来年1月頃に公式発効されることになった。

 韓米FTA批准は国民全体の同意を得ぬまま、無理やり処理された形だ。いま韓国の街で韓米FTA批准の無効を訴えるデモ隊は、放水銃を使用する警察と激しく衝突している。

 野党は来年度総選挙後に国会の多数党となれば、批准案を無効にすると公言した。この混乱の責任は、いったい誰が負うのだろうか。

 韓国側の被害が大きいと考える国民にとって、現政権と与党は説得力を失っているのかも知れない。

 韓米FTAの綿密な損益計算書を基にし、国益優先の交渉であったのかという疑問も大きくなっている。米国の下院と上院が満場一致で通過させたのは、米国にとって非常に満足であることを示唆するという指摘だ。

 韓米FTAは数年間の協議過程を経て、両国間の相互利益を十分に反映するよう調整してきたという。韓国政府としては開放後の国内産業を保護するために時間をかけながらも、輸出のために米国市場をさらに広げなければならなかった。そのため、交渉に長い時間を要した。

 米国産の農畜産物に対する関税の早期撤廃(即時~3年以内)は、ただでさえ萎縮している韓国の農畜産業を決定的に崩すこともある。

 韓国の製薬産業は新薬開発でなく後発医薬品の製造で大半を占めるが、後発医薬品は米国製品などの特許期間満了後に販売される。韓国は、新薬開発を中心とした競争力を持たなければならなくなった。

 銀行や保険など金融産業の開放およびグローバル化はすでに進行しているが、世界的な支配力を持つ米国金融会社との競争はますます強まるだろう。

 自動車産業で輸出を増やせるのは部品に限定しており、米国で生産された日本産自動車は韓国でより安く販売できるようになる。

 国家・投資家間における訴訟制度(ISD)の場合、韓国の司法の主権を侵害するという指摘がある。米国の投資家は韓国内の政策によって利益を侵害されたと判断すれば、これを国際仲裁機関に提訴できるようになる。

 不動産および租税分野の政策は適用対象外となるが、国内裁判所で解決できることを第3者に委ねること自体が米国の投資家保護を図るための主権侵害に当たるのだという。

 このように韓国に不利な内容があり、国民から韓米FTAの同意を得るのは容易でないと予測できた。

 過去に盧武鉉政権は韓米FTA妥結を試みたが、野党だったハンナラ党の激しい反対で失敗に終わっている。だが、いまは逆の立場だ。政界は政治的論理で賛成または反対に執着するとの非難を受けている。国益を優先にし、対話と説得で解決する政治を期待したい。

 先月言及した通り、韓米FTAは両国間の経済または貿易協定に過ぎないが、韓半島を取り巻く安保および国際関係にも大きな影響を与える事案だ。北朝鮮が中国に全てを与えるのと同様に、韓国が米国に全てを与えるのだと憂慮する識者もいる。韓国にとって国益とは何であるのか。これを考える人が増えると良いだろう。

 世界経済の回復はまだ期待できず、半導体やディスプレーなど韓国の主力輸出産業の不況が長期化している。このような状況では、環境、エネルギー、バイオ産業など次世代産業に対する投資も萎縮しやすい。雇用は減り、物価は絶えず上昇している。不動産バブルは崩壊の兆しだ。

 そのような中で韓米FTAは批准され、内需産業は四面楚歌となっている。現政府のレームダックが加速化する前に、内需活性化に向けた早急な政策を期待したい。

 韓国の産業が輸出中心となったのは、内需市場の小ささに関連している。FTAによって無関税の域内貿易を活性化および内需市場を拡大することは、韓国の産業が成長するために必要だ。

 しかし、国家間の相互利益を保障しなければならない。長期的な国家経営の観点で損益を明確にし、当面の犠牲を余儀なくする分野に対しては政策的代案も提示しなければならない。国民全体から合意を得る過程が必須なのである。


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