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2011/02/11

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑬韓日FTAを考えるいくつかの観点                                                 ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

 日本国内でも、韓国とのFTA(自由貿易協定)締結を勧める世論は多い。東アジアの唯一の先進国かつ世界経済のリーダーを自負した日本だが、過去20余年の間に成長してきた韓国がいつのまにか先進国に仲間入りしているという現実を直視しているかもしれない。

 2月2日付の朝日新聞の社説は韓国の地位に対し、このように表現している。「実際に韓国は先進国クラブというOECD(経済協力開発機構)の加盟国で、開発途上国を助ける開発援助委員会のメンバーになった。GDPも物価水準を勘案すると、日本と大差ない」。

 社説では、韓国と日本が共栄の摸索としてアジアの新しい先進モデルを創り出さなければなければならないと提案している。

 しかし、日本経済はデフレーションの長期化及び円高が続き、ついに世界2位の経済大国の座も中国に明け渡した。停滞状態の韓日FTAの交渉再開も、このような雰囲気から出ているという指摘に同感する。

 韓国にとって日本とのFTAは、得るものと失うものが明確だ。特に韓国の中小の製造業とサービス産業は日本に比べて低い地位にあり、甚大な打撃を受けるだろう。

 電子製品と自動車の場合、日本製品は無関税で韓国市場に入れば非常な競争力を持つようになる。対日依存度が高い電子部品、素材、精密機械などの輸入を一層拡大させ、依存が深刻化するとの予想もある。また、対日貿易赤字の固定化に対する懸念も出ている。

 このように韓国の産業現場では、韓日FTAに対して否定的な見解が遥かに多い。日本政府の積極的な交渉再開の要請に対し、韓国政府はすぐさま応じることができないという印象だ。

 産業間の競争優位要素という表現が、FTA実務交渉の過程で使われる。韓国と日本の場合、世界市場を巡って激しい競争を繰り広げている産業が多い。そのためFTAによって産業間の競争優位要素がなくなるならば、交渉には簡単に合意しないだろう。電子や自動車など両国の代表的産業がこれに該当するというのは、決定的な理由でもある。

 その半面、内需市場の規模拡大という側面で、韓日間の相互市場開放に対する積極的な立場も持ち合わせている。輸出市場は大きくて多様だが、政治経済的変化要素も多いために予想できない。したがって、安定的に一定規模以上へ内需市場を拡大することは、輸出主導型の産業構造を持つ韓国と日本にとって切実な課題となっている。

 韓日FTAは、両国の電子及び自動車産業に新しい内需市場を提供するだろう。もちろん、内需市場での競争は避けられない。だが、この競争によって品質、価格、サービスのレベルが向上すれば、輸出市場にも肯定的影響を与える。

 さらに、日本では韓国製品に対する消費者の認識も変わりつつある。もう日本製品だけに固執する消費者はいない。品質と価格に対する満足とアフターサービスへの安心があれば、韓国製でも中国製でも問題にならない。結局、競争力を持てば、韓国企業もFTAのもとで日本という新しい内需市場を確保するのである。

 電子産業に関連しては、部品素材と機械装置の対日依存度が非常に高い。韓日FTAによって日本関連企業の韓国直接投資が拡大すれば、対日貿易赤字の解消はもちろん、技術移転の可能性も期待されている。これに関しては、産業構造をいま一度確認する必要がある。

 韓国の電子産業は主に完成品を輸出しながら成長し、この完成品を構成する主要部品、素材及び製造に必要な装置の大部分が日本から調達された。

 最近ではTFT-LCDなどを中心にした主要部品を日本へ供給しているが、その部品素材も日本製だ。基本的な対日依存の産業構造が改善したと見ることはできない。前述のとおり、韓日FTAによって部品素材の対日依存度が深刻化する可能性はあるということだ。

 しかし、部品、素材、装置産業の技術的格差は狭まっている。大規模な需要顧客が韓国にいる以上、日本企業に対する現地対応を強く要求することができる。

 日本の技術企業の韓国直接投資を誘致するために、魅力的な条件を提示する韓国の地方自治体も増えている。長期的見識で見るならば、韓日FTAによって韓日間の技術、資本、マーケティングが結合する分野は拡大するだろう。日本の技術企業に対して技術保護の未練を捨てるよう要求するならば、韓国企業も長期的観点のもと大きな度量を持った連帯と提携が求められる。

 名分と実利の両方を得るというのは、存在しないかも知れない。しかし、見識の差のために起きる誤解と先入観は徹底的に取り除かなければならない。

 韓日FTAに対する憂慮と期待は様々だが、まず韓国と日本が持続可能な成長モデルを見出さなければならないという共存の必然性に共感するべきではないだろうか。


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