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2011/04/15

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑮部品素材産業の日本依存を考える                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆韓日分業体制模索する契機に◆

 東日本大震災は日本における戦後最大の災難で、地震や津波により数万の尊い命が失われ、東北沿岸と関東北部が壊滅的な被害を受けました。この紙面をお借りし、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに傷を受けた方、避難所で耐えていらっしゃる方、過労限界で原発に対応されている方、そして復旧活動をされている方への敬意を表し、早期の回復を祈願いたします。

 今月に入っても放射性物質流出の解決の糸口は見えず、物理的な汚染領域だけでなく日本経済の不安定性を拡大させている。発電所の崩壊は深刻な電力不足をもたらし、首都圏は計画停電を実施。これにより、産業界も自発的な順次操業中止を検討している。いつになれば生産と物流が正常化するのか、予測は難しい状況だ。

 ディスプレー産業は他の代表的産業(例えば自動車と半導体産業)に比べ、東日本大震災による打撃は少ないという。だが、あくまでも比較的少ないという意味と理解している。

 操業中止によって自動車の生産減少が及ぼす影響と比較すれば、中小型パネルのガラス練磨工場の稼働中止が及ぼす影響は小さいかも知れない。ディスプレー産業の中心が日本以外の地域にあり、影響は大きくないという先入観も出ている。

 ディスプレー産業への影響を要約すると、電子材料部門と製造装置向け部品部門は直接的打撃を受けた。パネルとセットとなる半導体部門が深刻な被害を受けたことから、ディスプレー生産も支障が出るとみられている。当面の被害は日本企業と中小型パネルに限定される見通しだ。

 しかし、停電による操業中止が続けば、韓国をはじめディスプレー産業全般で材料不足のため生産が減少し、装備搬入の遅延のため新規ラインへの投資が縮小する可能性もある。

 LCDパネルは供給過剰のため、第2四半期まで不振が予想されていた。だが、材料需給に支障を来たすと、第2四半期中に需給が緊迫する可能性がある。第3四半期にはパネル価格の小幅上昇も予想されている。セットメーカーにとっては、パネルの購入時期について悩む必要が出てきた。パネル以外にも半導体など他の主要部品の調達が難しくなれば、今年の生産計画を下方修正せざるを得ない。震災による市場の不確実性はパネルメーカーとセットメーカー間の需給状況を複雑にしている。

 一方、中小型関連材料(LTPS用ガラス、ACF)と装備(LTPS用フォト装備)の影響を勘案すると、日本の東芝モバイルディスプレイ(TMD)とシャープは最近受注したアップルのアイフォーン4などスマートフォン用のパネル物量をしっかりと供給できなくなる。その場合、LGディスプレイとサムスン電子に対する要求物量は増え、反射的利益を上げるとの展望もある。

 だが、韓国企業が本当に反射的利益を得るというのは、材料分野に対する国産化が加速する点にある。世界最大のLCDパネル生産国である韓国で採用される光学材料については、技術的信頼性と供給の安定性をもつ日本企業が相当部分を供給している。

 韓国の材料企業は技術的力量を持っていても、この信頼性と安全性という壁によって供給の機会がなかなか得られなかった。

 今回の震災は主要LCD部品素材の調達に直接的打撃を与えなかったが、韓国のパネルメーカーとしては調達ルートを多角化する必要性が出ている。

 だが、韓国産の材料が直ちに多くの部分を代替し、成果を出すことはできない。その点で、直接または間接的に被害を受けた日本企業が正常に復帰するまでは、FPD関連材料の調達困難は想像に難くない。

 もう一つ憂慮されるのは装備調達の問題で、韓国のパネルメーカーの新規投資計画が調整される可能性だ。日本のOLED用露光装置生産ライン及び関連部品のメーカーが直接的被害を受け、復旧時期の目途が立っていない。

 そのためにサムスンとLGディスプレイが計画している有機ELの5・5世代ライン増設はもちろん、8・5世代の新設計画の日程調整は不可避となる見通しだ。装備の国産化を要するという政府の主張が一層力を得る半面、部品の調達困難を懸念する装備会社としては政府の開発ロードマップに合わせにくいとみられる。

 今回の日本の災難が示唆するのは、韓国パネル・装置業界の対日依存度は相変らず高いという事実だ。韓国と日本の分業体制が変化する可能性について、確認できる契機になるだろう。


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