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2011/06/03

<オピニオン>エネ政策の新アライアンス                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から70回までの記事掲載中)

◆柔軟な戦略がビジネスチャンス拡大◆

 国家レベルでのエネルギー政策の見直しと企業単位でのエネルギー戦略の構築が、東日本大震災の直後からグローバルに議論されている。

 世界規模での原発の見直し、一方、再生可能エネルギーとしての太陽光発電への期待と加速化という新たなフェーズが台頭してきている。

 サムスングループでは、サムスン電子が結晶シリコン系を年間15万㌔㍗の少量生産を行っていたが、今後はサムスンSDIに全面移管し、2015年までに1600億円を投じて生産能力を20倍の300万㌔㍗に拡大することが決定されている。

 もともとはサムスンSDIで結晶シリコン系の研究開発を推進していたが、07年にサムスン電子へ移管したことがあり、再度、戻って来た格好になる。

 太陽電池には結晶シリコン系、薄膜シリコン系、CIGS系、CdTe系、有機薄膜系、色素増感系など、種類は多岐にわたり、各企業単位での強みを生かした事業展開や戦略を描きつつある。

 日本は家庭用太陽光発電事業を土台に40年もの歴史があり、更に今回の震災を受けて今後、2000万世帯への普及を目標にした政策を打ち出している。

 欧米も太陽光発電には積極的な姿勢を打ち出している。中国も太陽電池の生産は活発になっていて低価格戦略で大規模にビジネスを行っており、日本の市場にも低価格戦略での差別化を前面に打ち出し事業展開を図り始めた。

 韓国は世界的に見れば後発であるが、これはもともと家庭用太陽光発電のビジネスモデルが二つの理由で存在しなかったことに起因している。

 ひとつはアパート形式の集合住宅が主流であること、そしてもうひとつは電気代が日本の3分の1と非常に安いことによる。但し、今後は規模の大きな発電事業では世界的なニーズがあることで社会に貢献するビジネスモデルを育むことになる。

 一方、素材分野ではサムスングループのアライアンスが一層強化されている。08年9月にサムスンSDIとサムスン電子が有機EL事業を手掛けるサムスンモバイルディスプレイを合弁企業として創り、順調に成果をあげている。

 これに上乗せする形でこの合弁企業と宇部興産が、有機ELパネル用途で耐熱性の高い基板樹脂材料を合弁生産することになった。

 同様に、09年3月にサムスン電機とサムスン電子が合弁でサムスンLED社を設立した。液晶テレビのバックライト用途と照明事業、自動車産業への貢献を目指して今後の発展が期待されているが、ここでも住友化学とLED基板で150億円の投資を行って合弁事業に着手する。

 一方、リチウムイオン電池分野では正極素材、負極素材、セパレータ、電解液が4大部材となるが、セパレータでは東レ東燃が既に韓国で量産事業を行っているし、旭化成も最終工程を韓国に工場展開する。

 正極素材では、サムスン精密化学と戸田工業が合弁で韓国に生産工場を立ち上げることに決めた。SDIの電池事業に大きく貢献できるソリューションに期待がかかっている。

 リチウムイオン電池では各部材のコストが高いことから、今後のアプリケーション拡大と一層の普及を考える上では、高価な部材のコスト低減が大きな意味をもつ。

 正極素材と同様に、負極素材や電解液系でのコスト低減戦略がリチウムイオン電池のグローバル競争に大きく貢献するため、どのようなアライアンスやビジネスモデルを描くかが重要である。
    
 そのためには、部材供給メーカーとの協議は当然のことであるが、部材メーカーに素材を供給するサプライヤーとの直接的な協議と協業も必要だ。

 このようなシステムは既に、日本の自動車業界では普遍的な手法となって定着している。

 今後のあらゆる業界での基本的な視点は、グローバル競争を生き抜き勝ち抜くための戦略創りに他ならない。

 そのためには臨機応変なアメーバ経営、そして強みを互いに発揮する世界規模でのM&A、合弁、アライアンス等の協業、さらには事業の現地化などが活発に進むと考えられる。その代表的なものになる。

 いずれにしても柔軟な戦略と戦術が大きな競争力を育み、ビジネスチャンスを拡大することになるであろう。


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