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2011/06/17

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑰中小企業の協力成長と韓国経済の未来                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆変化が持続的成長を可能に◆

 韓国政府(企画財政部)が9日発表した「最近の経済動向6月号」によると、韓国の雇用指標は改善しているが、生産、消費、投資などの実体指標は多少停滞。雇用改善に伴った消費余力の拡大に対する期待もあるが、欧州財政危機の持続、米国経済の鈍化の可能性などグローバル景気の不確実性が消費心理を萎縮させる可能性も大きいと指摘された。

 今年4月の鉱工業生産は前月比1・5%減少するなど、生産増加傾向は低迷しているという。世界経済の活力が戻らなければ、韓国経済の成長が突然止まる可能性もある。環境の変化を克服することは、輸出中心に成長してきた韓国経済が常に抱える宿命だ。

 しかし、韓国経済の目下の問題はこのような外部環境の悪化だけでなく、中小企業の財政難や家計負債の増加など内需基盤の持続的悪化がより本質的な課題との指摘もある。

 英国のフィナンシャルタイムズ紙は5月30日「二極化が深化する韓国経済」というテーマの記事で、内需の脆弱性に比べて輸出だけが強い韓国経済の弱点を指摘。また、内需基盤の弱化は資本流入の減少をもたらす恐れもあり、政府政策の具体的課題として少数財閥に対する成長依存度を下げるべきと提案した。

 昨年に国内10大グループとその親族企業が韓国経済に占めた規模をみると、韓国経済の総産出額(3070兆ウォン)の30%を超える。この数値は2008年より3%高く、それだけ少数企業グループの経済的影響力が強まったことを意味する。一部では、大企業が中小企業の仕事を横取りしているという批判もある。韓国の中小企業は中国の製造業と熾烈に競争しながら、大企業の参入という現実を甘受しているのである。

 このような指摘は、協力成長委員会で中小企業の適合業種を選定・保護しようという政府政策がまだ成果を上げていないということかも知れない。最近、韓国政府は大企業と中小企業の協力成長を強いている。形式的かつスローガンだけの協力でなく、真の共生に対する協力関係があってこそ、中小企業の成長保障、雇用創出、堅実な消費の土台を構築することができる。政府政策の効果を願っている。

 サムスン系列の精密機械専門会社サムスンテックウィンに関する監査結果が、連日メディアに上っている。同社製品の欠陥によって国家的損害が発生し、その経緯に対する監査を実施。その結果、大企業の協力会社(中小企業)選定プロセス、協力会社に責任転嫁または不利益を甘受させる実態が明るみになった。李健熙・サムスン会長は世界最高企業というプライドを持つべきサムスンに有るまじきことと激怒し、サムスンテックウィン社長は退任。以後、李会長は不正腐敗の清算、中小企業との共存、共生の意志を強調し、サムスンの内部革新を促したという。

 韓国に限った話ではない。日本においても、中小企業と大企業間の納品単価引き下げ、無理な納期が常に思い浮かぶ。大企業の調達担当者は、それらを自社のためと信じてやまない。特に製造業の競争力の基本は価格にあることから、原価引き下げの努力は明らかに必要だろう。だが、原価引き下げの方法は、部品会社の納品価格引き下げしかないのだろうか。

 納品価格引き下げの代わりに、数量の増加、長期的納品の保障、設備投資の支援のような方式で驚異的な原価節減に成功した事例もある。部品会社の研究開発を支援し、革新的に原価節減できる部品を生産するように誘導することも良い事例だ。

 韓国の有機ELディスプレー産業の急成長に大きく寄与したのは、事業を主導するサムスンモバイルディスプレイ(SMD)が装備、素材、部品の協力企業とこのような共存モデルを実行したことだ。事業のアイディアを集め、核心素材の開発を共同で進めた結果、有機ELの素材分野の国産化率は80%を超える。SMDの有機EL事業が拡張するほど、協力企業も共に成長している。中小企業の成長は、雇用の安定を保障する。雇用は新しい付加価値を作り、内需基盤を堅固にするだろう。誰もが知っていることだが、実行は難しい。まず、中小企業を協力パートナーとする大企業の慣行と考えが変わらなければならない。フィナンシャルタイムズ紙で「協力成長の事例を広く共有し、改善する韓国企業」という記事が読める日を待っている。

 変化は簡単なことでない。体質を変えることは多くの時間を要し、試行錯誤もあるだろう。しかし、変化してこそ、成長し続けることができる。


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